分からない心




SIDE:圭吾

 バレンタインパーティーの打ち合わせを終え、司は帰った。もう何も話すことなどないというのに、幸介はなかなか帰らない。そのからかうような表情で、というよりその目でこっちを見るな。うっとうしい。


「圭吾、鈴ちゃんに補佐になってもらうって話、今すぐにできねぇのか?」

「素の時に鈴ちゃんとか言うな。気持ち悪い」

「別にいいだろ。なぁ、今すぐ入ってもらえよ。パーティー、選挙、卒業式。人出が欲しい。お前だって全部を監督しなきゃなんねぇんだからいっぱいいっぱいだろ?」

「年度末の大変さは中学でも経験したろう。乗り切れるさ。鈴音には4月からと言った。今更変更などしない」

「聞いていいか? なんで急に鈴ちゃんを補佐にしようと思ったんだ? お前は補佐は置かない主義だっつってただろ」

「有能な部下が欲しかった。俺に対しても忌憚なく意見を言う奴が」

「って、鈴ちゃんに言ったんだろ? そんな表向きな理由を聞いてんじゃねぇよ」


 確かに、今の生徒会役員は皆、俺に対して自身の意見を言うのだ。もちろん多少の遠慮はあるが、それが俺への信頼の証でもあると分かっている。


「表向きと取られようと本心だ」

「じゃあ、なんで今この時期に入れようとしない? むしろ、来年から入れるなら補佐なんかじゃなく役員としてリンを入れればいいだろ。リンなら必ず上位に入るはずだ。……まぁ、月夜としてになるだろうけど。どうして補佐なんだ?」

「…………」

「わざわざ、恋人だと思われる補佐に、なぜ栗原鈴音を?」

「リンは生徒じゃないんだぞ。役員になるなど無理だろう」

「うちなら可能だと思うけど? お前も分かってるだろ。顔さえよければ何でもありなんだぜ?」

「お前……、何が言いたいんだ? 俺に何と言わせたい。どう答えれば満足するんだ?」


 幸介は盛大に溜息をついた。呆れていると俺に分からせるように。


「なんでもない。お前の鈍さには驚いたぜ。そんなところもあるんだな」


 そう言い残して、幸介は部屋から出て行った。俺はさらにやりきれない思いを募らせることになってしまった。
 鈴音が帰った時から、よく分からない苛立ちに苛まれているというのに。


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