珍しい申し出
司が幸ちゃん先輩に促されて、会長の隣に腰を下ろした。
「あ、もしかして、月夜さんもバレンタインパーティーに出席なさるんですか?」
「あー、うん、そう。会長にそれ言いに来たんだ。月夜として参加すっからよろしくってよ」
「出席するのか。俺もその確認がしたかったんだ」
「親衛隊がある子はいくら自由参加といっても強制なんだっ。でもリンちゃんの親衛隊は公認じゃないし、どうするのかなってね」
「『リンちゃん』?」
「俺の名前。リンっつーんだ」
「まさか、OVERFLOWの?」
「おー、よく知ってんな」
俺がOVERFLOWのリンだと肯定すると、司は突然ガバッと立ち上がった。そして勢いよく俺に頭を下げる。
「俺をチームに入れて下さい! お願いします!」
「……は?」
「喧嘩なら多少自信はあります。チームに入れてくれませんか!?」
あまりにも考えつかないような展開。会長と幸ちゃん先輩も驚いている。会長たちにとって俺らのチームに後輩が入りたがってるってどんな気持ちなんだろ。
司がじっと微動だにせず頭を下げ続けているので、その真剣さが伝わってくるようだった。でもなんで? 別に入ってもいいことねーけどな。
「うちに入るにはどうするか知ってるか?」
「リンさんとのタイマンです」
「分かってんならいーや。俺の気が向いたらでいいなら、やろうぜ」
「ありがとうございます! 以前、リンさんのお姿を拝見した時から、リンさんは俺の憧れで……お会いできて光栄です!」
「あ、そうなの。ありがとう」
司がまた頭を下げて、会長の隣に腰を下ろす。俺に笑顔を向けている。一応、俺も笑っとこう。
……憧れってなんだ。神の恩恵を受けた男の遺伝子を受け継いだ奴に憧れられる要素なんかねーぞ。
なんとなく微妙な空気が流れる室内。幸ちゃん先輩がおずおずと声を発した。いや、発してくれた。
「あーのね? パーティーの話をしてもいいかな〜? なんて思うんだけど……」
「あ、はいっ。すみませんでした! どうぞ」
「ううんっ。いいんだけどね!」
「パーティーの打ち合わせすんだよね? じゃあ、俺帰るよ」
「あっ! 待って待って! リンちゃんに聞いてもらいたいこともあるんだよっ」
幸ちゃん先輩が俺の手をギュッと握った。ふにっとした柔らかくて小さい手。そして、上目遣い。なんなんだ、この気持ちは。ちょっとキュンとしちまった。
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