月夜親衛隊
あれは1月の終わり頃だった。昼休み中の高等部・中等部に校内放送が流れた。
『高等部生徒会からのお知らせです。本日、高等部2年B組の本田義隆君が、通称、月夜の親衛隊を発足しました。入隊希望者は高等部2年B組本田義隆君に申し出ること。中等部の皆さんは中等部生徒会に申し出て下さい。放送を終わります』
放送の主は会長だった。もちろん俺がいた学食は大騒ぎ。会長のファンがキャーキャー叫び、親衛隊に入隊したいらしい奴らは昼食もそこそこにダッシュで出て行った。
そして、特別フロア下の俺達はと言うと、1人を除いてポカーンと口を開けて放心状態になっていた。
「……うぉい! タロ! 口から思いっきり芋こぼれたぞ!」
バシン! とタロの頭を叩く。食べ物を粗末にしてはいけません。
「す、すすす鈴音ぇ!!」
タロを叩いたことによる小麦の焦りに焦った声。そう、たった1人、放心していなかったのは小麦だった。『ふーん、月夜に親衛隊ができたんさー』と言ったくらいで特に驚きはなかったようだ。
タロが芋をこぼしたおかげで正気に戻った俺はともかく、タロと空牙はひどかった。
「親衛隊が……月夜に……親衛隊……」
「リン……月夜に……リンに……リンが……俺の……」
「ブツブツうっさい! いい加減落ち着けよ」
放っておくわけにはいかないであろうこの問題。しかし、小麦がいては相談ができない。俺は体よく小麦をその場から離れさせることにした。
「なぁ、小麦。次の数Aお前当たってなかったか?」
「あ! そうだったさ! どうしよー、予習してないさー……」
「俺やってるからよ、俺のノート写せよ。な?」
「いいの!?」
「おぅ! 机の中にノートあっから見ていいぞ。俺はもうちょっとデザート食ってくけどよ」
「サンキュー、鈴音! 恩に着るさー!」
こうして俺の思惑通り、小麦は小走りで学食から出て行った。
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