チョコ100個
翔太とそんな約束をしたのが、2月の上旬。あの日から一郎は姿を見せなくなった。
その内ひょっこり戻って来るのだろうか。それとも空牙の見張りは違う誰かに変わるのだろうか。そして俺の見張りも。
「ちょっと鈴音っ! 聞いてるさー?」
「あ? あー、悪い。何だ?」
食堂の特別フロア下。一郎はいないが、お決まりのメンバーで朝食を食べている。俺、タロ、カズ。テーブルの向かいに空牙と小麦。
「だーかーらー、バレンタインパーティーさー!」
「あ? バレンタイン?」
バレンタインっつったら女のイベントじゃねーのかよ。この学園のどこに女がいるんだよ。
「今年はバレンタインデーが土曜だから、パーティーは参加自由だけどさ」
「じゃあ俺、不参加で」
「えぇっ!!」
栗原鈴音として宝生に編入して、約1ヶ月が経った。麻薬使用者は合計で15人捕まえたが、その中で売人とコンタクトをとっていたのはたったの4人。
翔太から買った4人の個人情報を隅々まで見ても、共通点は見つからなかった。売人に繋がる手がかりを何1つ得ることができないまま、もう2月も半ばに差し掛かっている。
相手の動きが読めない以上、こちらは動きようがない。できることと言えば、『月夜』という人物が夜に徘徊しているという噂を利用して、月夜が麻薬に関与している者を探していると売人に分からせることくらい。
自分を餌にして、釣り糸を垂らして待つ。それ以外に手がなかった。
そんな状況でバレンタインパーティーだ? どうでもいいっつの。めんどくせー。大体、どうせあれだろ? 女みてーな男がキャッキャ言うだけのもんだろ。くだらねーんだよ。
「鈴音参加しないの? なんでなんで? チョコいっぱいもらえるよっ?」
「俺が貰えるわけねぇだろ」
絶賛オタク変装中の俺だぞ。美形至上主義のこの学園でバレンタインのチョコなんか貰える訳がねぇだろ。
……が、そんな俺の耳元で悪魔が囁いた。
「月夜として出席したらいっぱい貰えるんじゃねーの」
「…………」
「少なくとも、親衛隊の分くらいはあるんじゃねーか? 100人は堅いだろうな」
「……チョコ、100個……!」
そうだ。意味が分からねーけど、俺っつーかリンっつーか月夜に親衛隊ができたんだった。
- 164 -
[*前] | [次#]
[戻る]