▼ 馬に蹴られて……
「じぃん!」
千歳の声に仁は振り返った。
幼稚園の送り迎え。
千歳がかけてきた。
「どうしたんだ」
千歳の頭の上には新聞で作った兜が乗っていた。
「くれたの、七浬(シチリ)君が」
「七浬君?」
千歳の横に七浬君なる少年が立っていた。
「君、七浬君?」
千歳の横にいるのだからわかるだろ、そう言いたいのか仁を睨んできた。
「千歳に友達かぁ。良かったな、千歳」
なかなか友達が出来ず、幼稚園では1人の千歳に言うと嬉しそうに頷いた。
「千歳は渡さないからな」
きゅっと見上げる七浬に仁はきょとんと七浬の顔を見た。
「そりゃあ、お前ライバル視されてるんだ」
千里がおかしそうに笑った。
「ライバルって、なんで?」
「いつも迎えに行った時、幼稚園の運動場で千歳と遊んでるんだろ。七浬って子は仁が来る度に友達の千歳を仁に取られるんだ。面白くないだろ」
「……ああ、なるほどね。それならとことん邪魔してやろっ」
「やめとけ。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえってあるだろ」
「恋……って」
「幼稚園児だって恋するさ。実際俺はしてた」
「千里さんが?」
「ああ」
「誰に?」
「聞いても誰かわからないだろ」
苦笑して仁の頭をなでた。
「今は仁が1番だぜ?」
「……っ! わかってるよ!」
顔を真っ赤にして仁は答えた。
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