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はっきり言えば、シャワーでも浴び、汗を流して寝たかった。
「要とはなんでもない。男抱くのは時雨だけだ。なんなら俺のだって証、ここに彫るか」
綺麗な背中を撫でて言う。
「ここに鷹を彫るんだ。要の親父にいれて貰うか」
「いいの……?」
「欲しいんだろ?」
甘く甘く囁く。甘い蜜を垂らす。
「オレ、千鷹の?」
「だから傍にお前がいるんだろ」
「……うん」
「泣くな。泣き虫」
泣き出した時雨を抱き上げる。
「風呂、一緒に入れ。馬鹿」
抱き上げたまま風呂場に向かう。
時雨が嫉妬した夜はいつも千鷹が時雨をあやす。可愛いと言えば可愛いが頻繁だとしんどい。
「千鷹は、やさしいね」
「どこが」
「やさしいよ」
どことは言わずに時雨は呟くように返す。
「お前だけだな。やさしいなんていう奴」
風呂場の脱衣場で時雨を降ろす。時雨が千鷹のシャツを脱がせていく。
「背中、洗わせて」
「ああ」
千鷹は時雨のパジャマを袖から抜いた。
東雲の屋敷には風呂が3つある。檜風呂、ジェットバスが2つ。
千鷹が大抵使うのは檜風呂だが、時雨と入る時は屋敷の一番奥にあるジェットバスだ。
そのジェットバスに時雨を放り込んだ。
ぶはっと水面から顔を上げた時雨がこっちを見る。
「水も滴る……だな。おっとこ前」
「うれしくないよ」
「誉めてんのに。時雨はほめられるより怒られたほうがいい、か? お前、マゾだしなぁ」
「そうじゃなくて、なんで投げ込むの」
「乱暴に扱われたほうがいいんだろ、お前」
トンと肩を押す。期待したような瞳とかち合う。
「生憎だなぁ、時雨。今日は眠いんだよ。明日までお預けだ、ポチ」
「い、犬じゃないし」
「犬とは言ってない」
反論して笑う。
「ポチ、背中流せ」
「はい、ご主人様」
嬉しそうに湯船から出てくる。
尻尾を振る犬だ、と千鷹は鼻で笑う。
「お前、ポチじゃないな。ハチだな」
「え?」
「忠犬ハチ公」
「やっぱり犬じゃないか」
「ハハッ、そうだな」
気立てのいい真っ白な犬。それが時雨だ。そして、同じ日立の神流はどっしり構えた黒か茶の犬。
千鷹に尻尾を振るのは両者変わらない。振り方は違うけどな、と嘲笑う。
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