最強男 番外編 | ナノ


▼ ミルク味

外を見れば眩しいくらいの光。室内にいるせいか、その光のせいか目の奥がくらりとする。

「あっつ」
冷房の効いている室内にいるにも関わらず、千鷹はうちわを扇いでいた。

ふと口角が上がる。

「神流、アイス」
「太るぞ、千鷹」
「運動は欠かしてないからだいじょーぶ」
にやっと笑って顎で冷凍庫を差す。

やれやれと思いながらも神流はアイスを出した。

千鷹の好きなバニラバー。

バーにかぶりつく千鷹。

「夏はアイスだよな」
「スイカだ」
「スイカなー。神流、好きだよな」
ぺろりと唇に付いたアイスを舐めていく千鷹の赤い舌。

「なー、神流。夜、空いてるか」
「空いてる」
「時雨が総本家に呼ばれて夜いないんだ」

千鷹からのお誘い。
誰にも気付かれない夜の密会。

そこには神流だけの千鷹がいた。


イブの日以来の密会。

「神流」
「何だ?」
「俺さー、海行きたい。昼も良いけど、夜の海」
「湘南でも行くか?」
「いいね。花火しようぜ、花火」
はしゃぐ千鷹がいる。

きっと時雨には見せないだろう子供っぽい千鷹。

神流だけに見せていると思えば口元がにやけるのも無理はない。

アイスをぺろりと食べた千鷹は棒をゴミ箱に投げた。

「花火、買っておく」
「おー。あとさ、焼肉食いたい!」
「わかった」
返事を返し顔を上げると千鷹はソファーに寝転がる。

「クーラーの温度、もっと下げろ」
「まだ暑いのか」
「暑いって」
ブラインドを少し斜めにし、日の光を遮る。そしてクーラーの温度を少し下げた。

「快適ライフ送りたい」
「俺の部屋だな」
「何、誘ってんのか。神流」
鼻で笑われる。

「ほったらかしにされてるからな」
「放置プレイ」
「わざとか」
「いや、時雨が警戒してるのか離してくれないの。春灯のとこにも行けてない」
「そりゃ、ご愁傷様だな」
曖昧に笑い、千鷹はソファーから起き上がる。

「だからわざと総本家に頼んだんだよ、一晩」
「なるほど」
窓から離れて千鷹の向かいのソファーに座ると千鷹は身を乗り出してテーブルに手を付いた。

もう片方の手が首に回ってくる。

千鷹の唇が近付いてくる。神流はそっと目を閉じた。

重ねられた唇はひんやりしていた。
千鷹の舌が入ってくる。ミルクの味がした。

アイスはたいして好きではない神流だったが、舌を絡ませて堪能する。

「……っ、はっ」
小さな喘ぎ。

唇を離せば、
「神流、キス巧いよな」
とろけた瞳とぶつかった。

こんな顔を見れば千鷹を独り占めできた気になる。錯覚に過ぎないことを神流は十分理解していたが。

だが、この顔は好きだ。神流しかさせることしかできない顔だと思っている。

千鷹は普段抱く側だ。けれど神流相手だと抱かれる側になる千鷹。千鷹をとろけさせる事が出来るのは神流だけ。

「ヤりたくなってきた」
「即物的だな」
「そーゆーの、嫌いじゃねーだろ?」
「まーな」
「けど、まだ階下に時雨いるんだよな」
と、同時にノックの音がした。

さっと神流の上からどいた千鷹は向かいのソファーに寝転んだ。

「どうぞ!」
千鷹が声を上げる。

顔を覗かせたのは時雨だった。

「そろそろ行くよ。千鷹は本宅に戻る……よね?」

時雨がちらりと神流を見る。ここで千鷹がここにいると言えば時雨には密会がばれるだろう。

「おー」
「本宅まで送るよ」
「うし。時雨、杏屋寄れよ」
「なんで? 食べたいの?」
「いんや。明日、恭のとこに寄ろうと思ってな」
杏屋の和菓子は中華街を根城にした雨宮恭一が大好きだった。

「明日昼頃、恭のとこに迎えに来いよ」
「わかった。でもどうやって行くの?」
疑うような目で時雨は神流を見る。

「要が鎌倉行くついでに乗せてもらう。今日、金曜だろ。土日は棗と過ごすんだと」
「ああ、そうか。要親子は仲いいな」

立ち上がった千鷹は、夜にと唇を動かして時雨と出て行った。


中途半端に味わった千鷹の唇。
甘いミルク味が残っていた。

「……」
神流は冷凍庫を開けミルクバーを味わった。

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