最強男 番外編 | ナノ


▼ 013

「警備担当の奴に連絡しておく」
「いい。いらない」
千鷹はぺらっと手を振った。

「人の気配のある中でゆっくり出来ない。今のままで十分だ。今でも警備は厳しいくらいだろ」
「でも、千鷹に何かあってからじゃ遅いんだよ」
「いらない。神流もいいな」
「……はい」
日立の者は東雲に逆らえない。不本意そうな顔で神流は返事をした。

「千鷹」
「しつこいぞ。部屋の周辺を強化してみろ、時雨、お前、何のために俺の“日立”なんだ。人任せにするつもりか」
「それとこれとは……」
「俺の側に“日立”がいる。だからいらない。人が周りに増えるのは本意じゃない」
「わかった。でも、ヤバそうなら考えるから」
それには千鷹も頷いた。

「悪い。遅くなった」
千森が詩とリビングに入ってくる。

詩に変わった様子はない。

神流が立ち上がる。

「あれ、どこか行くの?」
要が顔を出す。昨日、会おうと約束したのを時雨は思い出した。

「要も来るか。大阪に行く」
「もしかして相模組? 行く」
千鷹の誘いに要がのる。

「着替えてくる。時間ある?」
「あるけど急げ。そろそろ車が来る」
千鷹が言い終わらないうちに要はその場からいなくなる。

5分程で要は戻ってきた。きっちりスーツを着ている。

外に出ると車が2台、止まっていた。運転は日立の分家の者だ。

「神流、千森達と前に乗れ。要は俺らと一緒だ」
千鷹はさっさと車に乗り込む。

神流は素直にそれに従った。神流の心境は千鷹と同じ車に乗りたいのが本音だろう。

品川の駅で降り、新幹線に乗った。

もちろんグリーン車だが、要は飛び入りなため指定席だ。

「俺1人、指定席?」
「神流、お前指定席な」
千鷹の決定と共に神流も指定席となった。

神流も日立としての責任がある。席には殆ど座ることなく新幹線の中を見回り千鷹達が無事、新大阪に着く事に専念するだろう。

新幹線に乗り込み、千鷹はグリーン車の席に座る。

「要に話があるから行ってくる。神流の見回りも手伝ってくる」
「あたしも……」
詩が立ち上がる。

「詩はここにいて。楓、詩といて」
「わかった」
楓は通路側に座る。

「すぐ戻って来いよ」
千鷹の呼び掛けに頷いて、要のいる指定席に向かう。

一旦座った神流が立ち上がるところだった。

「見回り行ってくる」
神流が時雨に言う。

「神流。向こう半分でいいよ。こっち半分は僕が行く。あと要にちょっと話あるからその間、千鷹をよろしく」
「わかった。時雨」
「何?」
「安心するなよ」
「何の話?」
「……いや、何でもない」
神流は顔を背け、見回りに行った。

「神流、ライバル心むぎだし過ぎる」
「かな……」
「ほら、行っておいで。待ってるから」
「うん」
神流とは反対の方を見回って来なきゃならない。

千鷹が乗るのがばれていると狙われる危険もある。だから一応見回るのだ。

行って帰ってくると詩がいた。

「座って。妊婦が無理しちゃ駄目だ」
「時雨、知ってるの」
「聞いたよ。千森から」
詩を要の横に座らせる。

「そう。神流……は?」
「気付くの待つ。宣言させたいから」
詩はコクンと頷いた。

詩は、千森が神流をと思っていることを知っている。

「詩。幸せになって。引退しても千森の傍にいることが出来る」
「ええ、そうね。ありがとう、時雨。あたし、戻るわ」
詩が立ち上がる。

「付いていく?」
「“日立”が“日立”を連れてるのおかしいわ。あからさまにあたしに何かあるんだと思われる。それは駄目よ。大丈夫よ。すぐそこよ?」
「じゃ、俺が行くよ。そんなに不自然じゃない。すぐそこでも何があるかわからないよ。新幹線は動いてる。振動で転ぶかもしれない」
要が立ち上がる。

「そうね。ありがとう、要。お願いするわ」
「ちょっと待ってて、時雨。行こ、詩」
エスコートしながら要はグリーン車へと詩を連れて行った。

要は女性に親切だ。要が詩を連れていても、不自然じゃない。

すぐに要が戻ってくる。

「神流だけか。知らないのは」
このメンバーで詩の妊娠を知らないのは神流だけだ。

「神流、気付くか」
「気付くよ。気付かないと“日立”じゃない。“日立”は観察眼も鋭くなきゃならない。今日は1日一緒だ。気付くよ」
「いつ気付くかな」
「もう、うすうす何か気付いてるかもね。神流、けっこう、鋭いし」
「神流さー、神流が宣言するの待ってるの気づくんじゃ?」
「気付いてもせざる得ないと思う。神流は幹部になりたいんだもん……」
「はぁ……」
要は溜息を吐く。

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