最強男 | ナノ


▼ 19

からくり屋敷に戻り、総一のいた部屋に戻ろうとする。

「え!?」
襖を開ければ違う部屋だった。

部屋を間違えた?そう思いつつ、首をかしげる。

「仁」
千里が庭から声をかけた。

「千里」
「あんまりうろうろすると迷子になるぞ」
「それはイヤだな」
別宅で迷子になった事のある仁は首を振った。

「この屋敷は迷子になるよう作られているからな」
「そうなの?」
「だから、からくり屋敷なんだよ。昔、弾が迷子になって、1週間後発見された。弾はそれ以降、この屋敷には近づかねー。その時以来だ、今日ここに来たのは。あれはもう迷子というより遭難だ」
「1週間て……」
確かにこの屋敷は広い。

「余計な事、喋るなよ」
弾がイヤな顔して縁側から立ち上がった。

「千里が仁、連れて来いなんて言わなかったら今でも来てねーし」
よっぽどイヤな思い出として弾の中に残っているのだろう。弾は忌々しげに屋敷を睨んだ。

「そんなに睨むと、余計に屋敷から嫌われるよ。弾」
やわらかい声に振り向けば、日立くふりによく似た人物が立っていた。

「はじめましてだね、仁。時雨の父、九十九(ツクモ)です。総一の“日立”をしているんだ」
「そろそろ引退だろ」
「うるさいよ、弾」
笑ってかわし、仁に握手を求めた。


「今、時雨から稽古されてるんだって?」
「はい」
「時雨は厳しいだろう? でも、時雨が師匠なら、仁はいい“日立”になる。信じてついていきなさい」
「はい」
九十九は千里に目を向ける。

「千里、きっと仁はいい“日立”になる」
「そうでしょうね。時雨さんの稽古を見た。筋はいい」
いつ見られたのか、仁は千里に顔を向ける。

「早く仁が“日立”になればと思います」
ふっと九十九が笑った。

「お前の口からそんな言葉を聞くとはね。“日立”はいらないと言ってたお前がね」
「仁以外、誰もいりません」
千里はきっぱり言い切った。

「千里……」
千里は仁の肩を叩くと屋敷の中に入っていった。

「千里」
千里を追いかけて屋敷の中に入る。

「千里」
振り返った千里は、ついて来るなと言った。
そして廊下を歩いて行く。
まるで、全身で仁を拒否しているかのようだった。


「なんで」
来るな、なんて言うのか仁にはわからなかった。

「千里!」
声を上げればちょっと困った顔で振り返った千里がいた。

「なんだよ。この間から。わけわかんないよ、千里。避けてるよな、千里。俺の事」
千里が大きく息を吐くのがわかった。

「俺、千早先輩のトコには行かない。いろんな人のトコいくにしても、本宅の千里のトコから行く。今、千里から離れちゃいけない気がする」
「くそっ。……お前いいのか、本当に」
「何がだよ」
「……いや。来いよ、仁。今日の予定は明日でいい。弾に言って来い。車で来てる。BMWだ」
頷いて後ろを向けば聞こえていたのか、弾は行けと手を降った。


車までくればキーを投げてくる。
「千里、1人で来たの?」
「ああ」
「このBMWは?」
「東雲の車じゃない、俺名義の車だ」
仕事で動く時は大抵ベンツだ。

「いいの? 運転して」
「何を今更。今迄東雲のベンツを平気で乗っていた奴が」
「や、そうだけど。でも、はじめてベンツ乗った時はすっげー緊張したんだから。で、どこ行くの」
「そうだな……」
とりあえず車を動かす。

バックミラーで隣に座る千里を見れば、いつもと同じ千里がいる。仁は少しほっとした。


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