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翌日
「…なんでいるんですか」
「迎えに来た」
行くぞ、と先に歩いて行った聖司先輩を追いかけ、隣を歩く。
ちらりと先輩の方を見れば、ばちりと視線が合い、勢いよく顔を背けた。
「おい、何であからさまに顔そらすんだ。こっち向け」
「嫌です恥ずかしいです!」
勘弁してくれ昨日の今日で恥ずかしい。と思っていれば、横で聖司先輩が声を上げて笑った。
「…ま、それでこそお前か。いいから、早く学校行くぞ」
「ちょっ、待ってくださいよ!」
勝手に納得して先にすたすたと歩いて行く先輩に小走りで追いつき、並んで歩く。
聖司先輩の隣を歩けることが、今の私にとって、すごくすごく幸せに感じた。
* * *
「美咲、おめでとう」
結局、私が負けちゃったなぁ。と泣きそうになりながらも祝いの言葉を言ってくれたバンビに、複雑な気持ちになった。
「…応援するって言ったのに、結局諦めきれなくてごめん」
「いいの!それに、最初からちょっとだけわかってたんだ。設楽先輩は、美咲のことが好きなんだって」
だって、いっつも美咲のこと見てたんだもん。と言われて、私まで泣きそうになる。
本当に、この世界の人たちは優しすぎる。
もう少し、文句を言ってくれれば、私だって気が楽なのにな。
* * *
「聖司先輩、愛しの如月が来ましたよ!!」
「誰が"愛しの如月"だ。帰れ」
前までのように、何事もなかったかのように聖司先輩の教室に通い始めたのはいいのだが、聖司先輩の態度が相変わらずなのは何事だ。あの時のデレはどこにいったんだ。せめてこっちを見て文句を言ってください先輩!
「先輩、酷い!玉緒先輩、聖司先輩がいじめます!」
「いじめてないだろ!ちょっ、おい!」
教室に戻って来た玉緒先輩に泣きつけば、聖司先輩が怒りながらも慌ててこちらに来た。
玉緒先輩は、いつもの冗談だとわかりつつも乗ってくれる。流石だ。
「設楽、大人気ないだろ」
「1つ違いなのに大人も子供もあるか。あと頭撫でるのやめろ!」
こいつに触っていいのは俺だけだ!と言いつつ、私の腕を引っ張って抱きしめた聖司先輩に、私も玉緒先輩も、更には周りの人も驚いて固まった。
みんなの反応を見て、自分が何を言ったのか理解した聖司先輩は、顔を赤くして私から離れ、理不尽に怒って来た。
「お前のせいだ!もう教室に帰れ!!」
「えええ!!今のは聖司先輩ですよ!」
「あー、もう!うるさい帰れ!」
真っ赤な顔で背中を押され、教室の外に放り出されたと思えば勢いよく教室のドアを閉められた。
少し呆気にとられていたが、我に返って小さく笑い、自分の教室へ戻ろうと数歩歩くと、
「あ、美咲だ」
ルカに出会った。
3年生の階の廊下だけど、気にせずに立ち話することにした。
「おめでと、くっついたんだって?」
美奈子、泣いてた。と苦しそうに、だけどどこか嬉しそうに話すルカに、私は笑った。
「今度こそ頑張りなさいよ。ルカにだって、幸せになる権利はあるんだから」
むしろバンビと幸せになりなさい。と言えば、面白そうに笑った。
「頑張る」
ありがとな。という言葉とともに頭を撫でられ、変な奴と思ったのは内緒だ。
だってルカは、主人公枠の1人だ。幸せになっていいはずなんだ。
「…それはそれとして、今までの恩は返してもらうから」
「あ、鬼だ」
「何回パンケーキ奢らされたと思ってんの」
どっちが鬼だとため息をつけば、ルカは笑った。
「あ、そうそう。美咲と出掛ける度にさ、聖ちゃんに文句言われてたんだよ。俺とコウに怖がる、あの聖ちゃんがさ」
面白かったんだぜ。美咲にも見せたかった。と笑う彼に、私は唖然とする。あの聖司先輩が、自らこの兄弟に近づくことがあったのか。
しかもその近づく理由が、私だったとは。
ゆっくりと話を理解すれば、同時に熱くなっていく顔に困惑していれば、ルカが優しく笑った。
「だからさ、もっと自信持てよ。聖ちゃんは、美咲のことが好きなんだよ」
「…うん。ありがとう、ルカ」
…今日、一緒に帰ろうかって聞いてみよう、かな。
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