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「…で、チャンピオンをミクリに譲ったんだね」
「はい。ミクリさんとのバトル、楽しかったです」
帰宅し、夕飯を食べながらダイゴさんに、チャンピオンを交代したことを報告する。
バトルの内容を話せば、ダイゴさんは楽しそうに"僕も久しぶりにバトルがしたいな"と笑っていた。
あの後、ミクリさんとのバトルを終えた私の胸の中は、スッキリと晴れていた。
「…お疲れ様、メタグロス」
「勝者、挑戦者ミクリ!」
審判がコールをすれば、私は気絶したメタグロスをボールに戻し、ミクリさんを奥の部屋へ連れていく。
「ここは、チャンピオンになったトレーナーとポケモンを登録する場所です」
どうぞ、モンスターボールを機械に乗せてくださいと言えば、彼は大人しくボールを乗せた。
その横の指定された場所にトレーナーカードも置いてもらえば、後は機械が勝手に登録作業を行う。
登録作業は5分ほどかかるため、ミクリさんとお話しをする。
「良いバトルでした」
楽しかったですと笑えば、ミクリさんはひくりと頬を引きつらせる。
「…私は、もうエリシアと戦いたくはないけどね」
「"私と"、というより"ライチュウと"でしょう?」
私のライチュウ、強いでしょう?と言えば、彼は遠い目をした。
「…もう戦うことが2度とないことを願うよ。正直、ダイゴとよりきつかった」
「あら、それは嬉しい言葉ですね」
ダイゴさんとバトルをするよりきついと言ってくれるのであれば、私の旅も報われるというものだ。
…まあ、タイプ的なこともあると思うけれど。
そうこう話しているうちに登録作業が終わり、ボールとトレーナーカードをミクリさんに返す。
「ホウエン地方を頼みましたよ、チャンピオンミクリ」
よろしくお願いします。と頭を下げれば、頼もしく頷いてくれた。
「任せたまえ。この私がチャンピオンなんだ。今よりも、もっと良い地方にしてみせようじゃないか」
「期待してます」
「…っていう感じで、安心してミクリさんにお任せしてきました」
当分は家のことをやって、経済的に心配があればパートにでも行こうかと思っていることを話せば、眉間に皺を寄せたダイゴさん。
「…僕、一応、大企業の社長なんだけど」
「?知ってますけど」
それが何かと尋ねれば、次は頬を膨らませた。
「お金なら心配しなくていいよ。エリシアの好きなことをしていいんだ」
「好きなこと、ですか…」
うーん…としばらく頭を悩ませて、あ、と声を出した。
「なにか、やりたいことがあったかい?」
「はい、ありました」
私、ダイゴさんとの子供がほしいです。
「…え、」
私の言葉を聞いたダイゴさんは、それはそれは顔を赤くさせた。
そして小さな声で"…考えておくよ"とだけ告げられる。
彼の小さい回答に元気よく頷き、子供の名前や将来について想いを馳せた。
いくら考えようが、私が考える未来は、周りの人すべてが笑顔だった。
…たのしみ、だなぁ。
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