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ルネシティから帰宅し、ダイゴさんが準備してくれた夕飯を食べながらお話しする。
内容は、今日ミクリさんとの話しで挙がった、新しいイベントの話しだ。
「…で、私の予想以上にみんなからの反応が良かったらしくて、来年も開催される予定なんです」
あまりに私が楽しそうに話すからか、ダイゴさんも楽しそうに頷きながら聞いてくれる。
「そうか。良かったね、エリシア」
「はい!」
私が頷けば、ダイゴさんも嬉しそうに頷く。
「トレーナーが育つのは、良いことだからね」
彼がそう言った瞬間、昼間にミクリさんに言われた言葉を思い出す。
「トレーナーが育つのは、良いことですから」
「まったく…。誰に似たんだか」
そういうことかと、ミクリさんの顔を思い出して笑う。
1人で笑い出した私に、ダイゴさんは不思議そうに首を傾げる。
「エリシア?」
「あぁ、いえ。すみません。…今日、ある言葉を言ったら、ミクリさんに"誰に似たんだか"って笑われまして。その時は誰を指してるのかわからなかったんですが、今のダイゴさんの言葉を聞いて納得しました」
「…ある言葉?」
頭に疑問符を浮かべているダイゴさんに、笑顔でその言葉を紡げば、ダイゴさんは目を見開き、次いで笑い声をあげた。
「なるほど、僕か」
「ダイゴさんでしたね」
私もダイゴさんもひとしきり笑ったところで、チャンピオン交代のことも話す。
「実は、そろそろ限界かなと思いまして、ミクリさんにチャンピオンの交代を打診してたんです」
今日もそれでミクリさんと話していたのだと言えば、ダイゴさんは少し驚いていたけど、特に反対はされなかった。
「そうか。エリシアが決めたことなら、それでいいと思うよ。ミクリも、十分強いからね」
けど、いいのかい?と聞かれ、悩むことなく頷く。
「ダイゴさんと、もっと一緒にいたいですから」
だからいいのだと言えば、彼は嬉しそうな、困ったような反応だった。
「僕は嬉しいけれど…。エリシアが、後悔しない選択をするんだよ?」
「もちろんです」
ダイゴさんには感謝している。
"チャンピオン"なんて立ち位置、普通に過ごしていればまず体験することができない。
それを、彼のおかげで私は体験できた。
小さい頃から、ダイゴさんに導いてもらってばかりだ。
「ありがとうございます」
「…?なにがだい?」
不思議そうな顔をする彼に、なんでもないと返す。
私は、幸せ者だ。
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