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「…なるほど。それで私のところへ来たわけか」
「お忙しいのに、急に押しかけてすみません」
ルネジムの中にあるミクリさんの執務室で、私たちはソファで向かい合って話す。
私がミクリさんとチャンピオンを交代したいことを話せば、彼は笑った。
「そろそろだと思っていたよ。エリシアも、ダイゴとゆっくりしたいだろうからね」
「はは…。おっしゃる通りです」
話しを聞けば、どうやらミクリさんはダイゴさんからも相談を受けていたようだ。
「エリシアはダイゴと違って真面目なチャンピオンだからね。ホウエンリーグもチャンピオンの存在を前面に出してきているし、イベントにも出させているだろう?」
ダイゴさんがチャンピオンのときは、彼がよく姿を眩ませていたこと、彼の見目が良すぎることから、リーグはチャンピオンの存在を前面に出していなかったという。
…だからか。彼が街で普通に出歩いても、周りの人に何も言われなかったの。
「って、いやいや…!それで凡人の私になったからって、急に仕事量増やされても…!」
ミクリさんの話しに納得した部分もあったが、それはそれで話が違うと抗議しても、彼は困ったように笑うだけ。
「私に言われてもねぇ。まぁ、話はわかったよ」
考えてみると言われ、とりあえずその話は終わる。
あとは彼が前向きの返事をくれることに期待するだけだ。
その後は久しぶりにミクリさんとたくさん話して、太陽が沈み始めればカナズミシティへ向かう。
「ただいま」
スーパーに寄って夕飯の材料の買い出しをして家に帰る。
ただそれだけなのに、とても久しぶりに思えた。
…もうちょっと暇があれば、ダイゴさんに毎日ご飯作ってあげられるんだけどなぁ。
ふうとため息を吐き、夕飯の支度を始める。
私が家に帰ってこられないために、ダイゴさんは自分で料理を作って食べているらしい。
それを本人から聞いたとき、申し訳なさ過ぎて土下座したのは良い思い出…でもないかも。
「…でも、せっかく結婚したんだし、もうちょっとお嫁さんっぽくしたいよ」
普通の家庭の、普通の夫婦のように。
朝は私が朝食とお弁当を作って、出勤するダイゴさんを見送って、夜は夕飯の準備をして帰宅するダイゴさんを迎える。
ただそれだけなのに、今の私たちでは、到底叶いそうにない日常だ。
チャンピオンになったのを後悔しているつもりはない。
だけど、今はすごく近いはずのダイゴさんが遠いように感じる。
もっとダイゴさんの傍にいたい
もっとダイゴさんと話しがしたい
もっと私を見て微笑んでほしい
最近、そう思う気持ちが強くなっていっている。
……わがまま、なのかな。
後ろ向きな考えになりつつも手は動かし、着々と夕飯は出来上がっていく。
あとは煮込むだけ、というところで玄関が開き、パタパタと走る音が聞こえたと思えば、勢いよくリビングの扉が開いた。
もうちょっと急いで夕飯作れば良かったな、と思いつつ彼のほうへ振り向く。
「おかえりなさい。今日は肉じゃがに……、どうしたんです?」
帰宅したダイゴさんを見れば、彼はなぜか私を見て目を見開いていた。
彼の反応に首をかしげ、とりあえず彼のコートとスーツの上着、鞄を預かって所定の位置に戻していれば、突然後ろから抱きしめられる。
「だ、ダイゴさん!?」
慌てて離れようとするが、逆に腕の力は強くなるだけだった。
「最近、各地方に飛び回ってばかりだったろう?…少し、充電させて」
エリシア不足でしんどいと言われれば、大人しく頷くしかなかった。
ダイゴさんに抱きしめられていると、日頃私が感じていたわがままな気持ちが、少しずつ満たされていく。
胸に、温かい気持ちが広がっていくのだ。
そして気づく。
「……私も、ダイゴさん不足みたいです」
私も彼と同じく、寂しかったのだと。
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