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3年後


「チャンピオン!今度キンセツシティで行うイベントの日程ですが…」

「チャンピオン、明後日のテレビ出演の件ですが…」

「チャンピオン!明日、リーグ挑戦者の予約があるの忘れてないですよね!?」





「あーーー、もう!!せめて一人ずつ話してくれません!?」


執務室に押し寄せてくるリーグスタッフに、椅子から勢いよく立ち上がって怒りの声をぶつけた。

スタッフたちは気まずそうに顔を見合わせ、縦に1列に並べば順に用件を話し出す。

話しを聞きながら、内心ため息をつく。


…ダイゴさん、この量の仕事をこなしながら、デボンの仕事もやってたのか。
そりゃあ、最後の方なんて死んじゃうよね。


披露宴が近づくにつれてボロボロになっていった、あの時の彼を思い出して苦笑した。






3年前、私は結婚の披露宴でダイゴさんにチャンピオンの座を賭けたポケモンバトルで勝利した。
前回と同じく接戦だったけど、メタグロス同士の対決で、再びダイゴさんのメタグロスが先に気絶したのだ。


「…勝負あり!勝者、エリシア!!」


静かに見守っていた会場は、審判のコールで一気に沸きあがり、四方から歓声が上がった。
その声は私を称える声であり、祝福の声であり、ダイゴさんの健闘を称える声であり、黄色い声であり。

どちらかの非難の声は一切なく、優しく、温かい声ばかりだった。

「ありがとう、メタグロス」
「おつかれ、メタグロス」

私とダイゴさん、どちらも同じタイミングでメタグロスをボールへ戻せば、バトルフィールドの中央まで歩き、向かう会う。

「前回よりも強くなったね。トレーナーが育つことは良いことだ」

「ありがとうございます。だけど…」

私が顔を少し俯かせると、不思議そうに首をかしげる彼は、私の肩に手を置いた。

「なにか不安かい?」

「…私は、ダイゴさんのように立派なチャンピオンになれるでしょうか」

私は、彼のようにトレーナーが成長するのはいいことだと、まだ心から思えない。
それに、すべてのポケモンを平等に愛するだなんて出来ない。
まだまだ、自分と自分のポケモンだけで一生懸命なのだ。

そのことを彼に伝えれば、彼は私の不安を、なんてことないように明るく笑い飛ばした。

「僕も最初はそうだったよ。チャンピオンなんてそんなものさ」

「…ダイゴさんが?」

信じられなくて疑うように見たが、彼は大丈夫だというように深く頷いた。

「大丈夫さ。キミと、キミのポケモンを信じていればね」

まずはやってみてくれとの言葉とともに頭を撫でられ、納得はしていなかったがとりあえず頷いた。

「…わかりました。やれるだけ、やってみます」

「あぁ。なに、飽きたらミクリにでもチャンピオンを押し付ければいいさ」

たぶん、ダイゴさんは冗談で言ったと思うけど、その言葉は私にとって安心できる言葉だった。

「そうですね。ミクリさんも、チャンピオンじゃないのが不思議なくらい強い方ですし」

小さく笑えば、ダイゴさんは安心したように息を軽く吐いた。

「やっと笑ったね。大丈夫、いつでも相談ぐらい乗るよ。チャンピオンを交代したからって、エリシアを放り出したりしないさ」

「ありがとうございます」

不安が払しょくされたことにより私は笑顔を浮かべ、
ダイゴさんは私を見て安心したように笑った。


*  *  *




・・・というのが3年前。


そして今は、ホウエン地方のチャンピオンとして忙しく地方中を飛び回っている。
リーグへの挑戦者が現れたら、たとえバトルをしないとしても、必ずリーグには戻らないといけない。
家はダイゴさんが仕事をしやすいようにと、カナズミシティに家を建てて住んでいる。

3年目ともなればいろいろと慣れたが、チャンピオンになった直後はいきなり変わった環境と忙しさに身体がついていかず、よく体調を崩してダイゴさんに心配されたものだ。

その時は内心、

"いや、え?

身体が何個あっても足りなくない?

よくダイゴさん、この業務量にプラスして石を探しに行けたな?
よく各地方のチャンピオン、何かしら兼業できるな?(特にシロナさん)

え、無理では?"

…と、いつも思っていた。

口が裂けてもこんなこと言えないけどね!!!


けれど、私はチャンピオン、ダイゴさんは大企業の社長と、お互い忙しい身のため家で顔を合わせることがほとんどないことにも、内心では不満に思っている。

私はチャンピオンの仕事で各地を飛び回り、家に帰らないこともしょっちゅう。
ダイゴさんはダイゴさんで、家に帰って来ても夜遅く、家を出るのも早い。
顔を合わせない日が続く、なんてことも珍しくなかった。


「…あ、ダイゴさん!お久しぶりです!!」

「エリシア!久しぶりだね。今回はトクサネに行ったんだって?」

「そうなんですよ!そのトクサネで……」

なんて会話が、顔を合わせるたびに発生する。

…客観的に見て、家庭内別居と思われても仕方ないのでは?
というか、もはや夫婦の会話ではない気がする。
…え、これ結婚した意味ある??

気づいてはいけないことに気づいてしまい、頭を抱える。


「……で、ここのポケモンの生態系は…って、チャンピオン、聞いてますか?」

「聞いてます聞いてます。続けてどうぞ」


スタッフの話しを聞きながらも、別の問題で内心では頭を抱え続けたままだ。
チャンピオンになってからというもの、バトルをする機会はめっきり減り、その分机に向かう時間が増えた。

これ、10歳そこらの少年少女がやるには無理では?と思ってしまう。
よくチャンピオンできるな、ゲームの主人公たち。


…そろそろ、あの人にチャンピオン押し付けようかなあ。


「…で、どう思われます?チャンピオン」

「そうですね。そこは…、」

スタッフによる状況説明が終わり、最終的な判断を求められたため回答した。
その彼が部屋を出ていけば、これで執務室に押しかけてきた全員の話しを聞き終えたことになる。

私は無心で立ち上がり、バルコニーに出てチルタリスを出した。

「チルタリス、ルネシティまで」

「チルッ」

チルタリスの背に乗り、大空へ飛び立つ。

「…ミクリさん、頷いてくれるといいけど」

ちょっとの不安と、彼に久しぶりに会える嬉しさが混在するなか、ルネシティへと向かった。

 

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