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披露宴は、私とティアが頑張って準備をした甲斐もあり、ゲストに楽しんでもらえている、……と思う。
食事もドリンクも、人間用とポケモン用と、たくさん用意している。
…どうせ半分はリーグ本部持ちだからと、少し盛大にしすぎたかもしれない。
今回の披露宴は人も多いということで、立食形式にしている。
私とダイゴさんはゲストに挨拶回りをし、その合間を見て突撃してくるテレビ局のインタビューにも散々答える。
全部終わって一息つき、私とダイゴさんも食事とドリンクを楽しんでいれば、彼はちらりと腕時計を見て、次いで私の手をとった。
「だ、ダイゴさん?」
「行こう、エリシア!」
楽しそうに笑って前にある壇上へと私を引き連れた彼は、私と向かい合い、マイクを通してこう言った。
「エリシア、今から僕とポケモンバトルをしよう」
その言葉に、盛り上がっていた会場は一気に静かになって彼の言葉の続きを待つ。
私は私で、ポカンと口を開ける。
「…バトル、ですか?」
ここで?と尋ねると、そうだと返された。
ダイゴさんには、既にトキワジムで勝ったし、なぜ今更…。と彼の真意を探っていれば、彼は次に、とんでもない発言をした。
「僕がここでエリシアに負けたら、キミにチャンピオンの座を譲ろう」
彼の言葉に会場は一瞬固まったが、文字通り一瞬のこと。
次の瞬間には会場は盛り上がり、テレビ局は生き生きとカメラを回し始めた。
私は私で、彼からマイクを奪い取り電源を切って待ったをかける。
「ちょっと待ってください!なんで今更チャンピオンなんて…!」
私はダイゴさんに勝ちたかっただけで、チャンピオンそのものに興味なんてない。
そのことを伝えれば、ダイゴさんは苦笑して頷いた。
「わかってる。だけど僕はもう、デボンの方に集中したいんだ。…いや、集中しないといけない」
その言葉に、彼の意図に気づく。
「…だから、前回ダイゴさんに勝った私に、あんなことを…」
「あぁ。大勢の前で言ってしまえば、それを通すしかなくなるからね」
リーグ本部にも了承してくれている旨を聞き、ため息をつく。
「…チャンピオンと社長の二足の草鞋を履くなんて無茶、するからですよ」
「うん、ごめん」
「私がこの半年間、どれだけダイゴさんのことを心配したと思ってるんですか」
「流石に無理があったね。正直、しんどかったよ」
「…もっと頼ってくださいよ」
彼の辛さに気づけなかった自分に悔しくて俯けば、彼は私を抱きしめた。
「あぁ、だから頼らせてくれ。…意地でも、僕を倒してほしい」
彼の腕の中で頷く。
「はい。…意地でも、ダイゴさんを倒してみせます」
私が頷けば彼が離れ、手を引かれるままバトルフィールドへと連れられる。
「…って、バトルフィールドあったんですか」
なんて用意周到な。と呆れていれば、ダイゴさんが小さく笑った。
「見覚えないかい?」
「……え?」
彼の言葉によくよくバトルフィールドを見回して、もしかしてと、一度だけ見た景色がフラッシュバックする。
「ここって…!」
慌ててダイゴさんへ顔を向ければ、彼は楽しそうに笑っていた。
「そう。エリシアが初めて僕とバトルをした、あの場所だよ」
彼の言葉を聞いた瞬間、ドクドクと心臓が身体中に鳴り響く。
ここは、まだ私たちが幼い頃、ダイゴさんが私にバトルを教えてくれると言ってくれて、当日に場所を指定された、あのバトルスタジアムだった。
あの時来たのは、デボン・ホールだったのかと理解したと同時に、初めてダイゴさんとバトルをした記憶と、その景色が蘇った。
「…っ、」
一気に胸が高鳴り、ティアから手持ちのポケモンが入った6つのモンスターボールを受け取れば、ダイゴさんに向き直る。
「今度は負けませんよ」
私の言葉を聞いた彼は、嬉しそうに笑った。
「あぁ、良いバトルをしよう」
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