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「はぁ…」
「どうなされました?お嬢様」
披露宴で使うウェルカムボードやゲストの座席表を作りながら、ふとため息を吐けば、私と一緒に作業してくれているティアが首を傾げた。
「いや…、ダイゴさん、そろそろ過労で倒れるんじゃないかって思って…」
私がそう言えば、ティアもあぁと納得する。
ダイゴさんは、ムクゲ社長から"結婚を機に社長を交代しよう。ダイゴのためにもなるし、そろそろ隠居したい"と言われたらしく(恐らく後者が本音)、チャンピオンの仕事をこなしながらも、デボン・コーポレーションの社長の業務の引継ぎをしてもらっているらしい。
リーグ本部やダイゴさんの家の使用人によれば、
"朝早く家を出たと思ったら夜中に帰って来る。ここ最近姿すら見ない"
らしい。
やはりチャンピオンと大企業の社長という、二足の草鞋は履けないのでは…、と密かに思ってたりする。
思っているだけで口に出したりはしないが。
そんなわけで、結婚式や披露宴の準備は主に私が進めて、ダイゴさんもいないと決められないことは電話で確認しながら進めている。
結婚式とか披露宴の準備って、新郎新婦きゃっきゃうふふ言いながら2人で進めるものでは…?
…と、思わないこともない。むしろ最初のほうは思ってた。
「…やっぱり、我儘なんて言えないわね」
ため息を吐きながら言えば、ティアも眉を下げて肩を落とす。
そんな彼女を見て、悲しませるわけにはいかないと気合を入れ直した。
「ダイゴさんが驚くぐらい、2人で素敵に仕上げましょう!」
「お嬢様…。…はい、そうですね!」
ティアと、ああでもないこうでもないと言いながら試行錯誤を重ね、準備を進めていく。
ちなみに、結婚式と披露宴は半年先である。
ウェディングドレスや髪飾りやブーケ、披露宴で着るお色直しのドレスなんかは、既にデザイナーに頼んである。
それなのに何故ティアと、せっせと2人がかりで準備しているのかと言うと、理由は単純だ。
招待する人数が桁外れだからである。
結婚式はまだいい。身内や友人(ダイゴさんの場合はジムリーダーとか)だけだ。
ただ、披露宴はそうにもいかず、リーグ本部やジム、果ては芸能関係やテレビ局まで招待しなくてはいけないようだ。
そのかわり、費用の半分はリーグ本部でもってくれるらしい。非常にありがたい。
そんなわけで、料理やドリンクの準備、ゲストの座席表や名札の数なんかも桁外れになってきて、最初は一人で準備を進めていたが、途中からティアに泣きつき、結果2人で準備を進めることになった。
細々とした作業はティアに向いているらしく、楽しそうに作業を進める彼女を見て、内心ため息を漏らす。
…ダイゴさん、結婚式まで死んでないといいけど。
数日前に会いに来てくれたときの、彼の疲れ具合を思い出して胸を痛める。
…なにか、私にもできることってないのかなぁ。
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