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「突然押しかけてしまい申し訳ありません」


「エリシアさんと、結婚させてください」


必ず、幸せにしてみせます。


そう言って笑ったダイゴさんの顔を、私は生涯忘れることはないと思う。











「ただいまー」


「失礼します」


家に帰ってダイゴさんが改めて両親に挨拶し、私と結婚したいと伝えれば、両親は二つ返事で頷き家中は大騒ぎ。

両親は机を挟んだ向かいのソファで、やれどこの家に招待状を出さねばと会議を始め、

使用人たちは、メイド長や執事長を中心に私のドレスや料理はどうするかなど、一斉に走り出した。


一気に周りが慌ただしくなったなか、隣で微笑んでいるダイゴさんに視線を向ける。


「…ちょっと、どうするんですか。一気に家の中が騒がしくなりましたよ」

「結婚の報告をしたんだから、まあこんな感じにはなるだろうね」


これぐらいは想定内だと、特に驚いた様子もなく言った彼にため息を吐く。
すると、何かを思いついたのかポケナビを取り出し、どこかへ電話したかと思えば、彼はこの状況に、更に爆弾を落とした。


「とりあえず披露宴の会場は、デボン・ホールで行いましょう」


彼の言葉にその場が一瞬で静まり返ったが、次の瞬間には私とティアを除いたみんなが叫び声をあげる。

両親なんて驚きの連続で壊れそうだ。


「…で、デボン・ホールなんて…っ!一生に一度、入れるか入れないか…っ」

「あ、あなた!しっかりっ!!息をして!!深呼吸よ!」


お父さんが服の上から胸を押さえ、膝から崩れ落ちる。
お母さんは、お父さんの両肩を掴んで必死に揺すっていた。

「・・・」

訂正しよう。
とっくに壊れていたようだ。


より一層家の中が慌ただしくなったなか、ティアはため息をつきながらダイゴさんに話しかける。

「…それにしても、デボン・ホールなんて、また大きいところを借りましたね」

みんなが言う"デボン・ホール"とは、その名の通りデボン・コーポレーションが所有するホールだ。
それだけなら、まだそこら辺にあるホールとは変わらない。
他のホールとは違うところ。それは、


デボン・ホールが、リーグ本部やジムリーダーしか使用できないところである。


ということは、必然的にデボン・ホールを使うのは、地方の重要人物しか無理なわけで。

いくら家庭が裕福だろうが有名だろうが、リーグ本部が認めなければ借りることはできない。


「…まあ、ホウエン地方のチャンピオンの披露宴だったらいけそうよね」

「しかも、デボン・コーポレーションの次期社長ですしね」


私とティアがジト目でダイゴさんを見れば、彼は私たちの視線に気づいて苦笑する。


「リーグ本部から言われていたんだよ。"結婚式は身内で行ってもいいけど、披露宴はカメラも呼ぶから盛大に"ってね」


「…なるほど」

リーグ本部からのお達しだったか。


私とティアが納得すれば、両親は少し落ち着いたのか、咳払いしてソファに座りなおした。
そして、お父さんがダイゴさんに顔を向ける。

「本当に、この子でいいんですね?」

この子は案外頑固だし、意外とお転婆だし、これと決めたら突き進んでしまうところもありますし…。


肩を落としながら私の短所を次々とあげていく父に頬がひくりと引きつる。

え、実の娘に失礼じゃない?

…と思っていれば、次には真剣な顔でダイゴさんを見る。

「気難しいところも多いですが、それでもエリシアは、私たちが手塩にかけて育てた娘です。自慢の娘なんです。…いくらあなたが御曹司でも、私たちの娘を泣かせることだけは、絶対に許さない」

覚悟は、できていますか。


最後にダイゴさんに問いかければ、彼も真剣な表情で頷く。


「お二人に誓います。なにがあっても、エリシアさんを悲しませることはしないと。…お二方の大切なエリシアさんを、僕にください」

言葉とともにダイゴさんが両親に頭を下げれば、父も母も、涙を流しながら笑顔で頷く。

「あぁ。…っ、あぁ…!必ず、必ず…!幸せにしてやってください…!」

お願いします。と両親も頭を下げ、やがてみんな微笑みながら顔を上げて笑い合う。

その光景を見て、私も涙が溢れた。

そんな私を見て、父も母も、ダイゴさんも苦笑する。

「なんでエリシアが泣くんだ」

「、だ、って…!」

「ほら、泣かない泣かない」

可愛い顔が台無しだよ。と彼のハンカチで優しく涙を拭われる。

「ダイゴさんが優しい…!」

「失礼な。僕はいつだって優しいだろう」

そんな軽口を言い合いながら、私たちは笑う。











「…なあ、母さん。やっぱり、彼をエリシアの相手に選んで良かったな」

「そうね。あなたが見合い話を持ってきたときはぶん殴ろうかと思ったけど、彼は良い人だったわね」

私とダイゴさんが笑い合っている向かいで、両親が嬉しそうに肩を寄せ合いながらそんな言葉を交わしていた。

 

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