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「良い返事じゃなくてすみません。だけど、少しだけ考えさせてください」

そう答えれば、彼の顔は青ざめ、手は小さく震え始めた。
その姿に胸が痛み、罪悪感が募る。

「…そ、そうか。わかった。……差し支えなければ聞きたいんだが、その…、何故だい?」

私の隣に座った彼の顔は未だ青ざめたまま。
しかし真剣な瞳で尋ねてきた彼に、先程キュウコンにした話をする。

「私は、常にダイゴさんを目標に旅を続けてきました。…私は、あなたを超えたい」

あなたを超えるまでは私の旅は終わりませんと言えば彼は目を見開き、大きく、ゆっくりと息を吐いた。

「……他に、好きな人ができたわけではないんだね?」

「それはありえません。私はずっと、ダイゴさんだけを見てきたんですから」

彼の問いに否定すれば、強く抱きしめられる。
そして、安心したように体から力を抜いたのがわかった。

「……良かった。さっきは本当に肝が冷えたよ」

「言葉足らずですみません」

「いや、いいんだ。…でもそうか、ずっと僕を見て、今まで頑張って来たんだね」

嬉しいよと顔を緩める彼に、近いうちに超えてみせると宣言すれば、大きく頷かれた。

「そういう事情なら仕方ないね。僕個人としては、早く僕を超えてほしいよ。そして早くエリシアと結婚したい」

エリシアを独り占めしたいと言われ恥ずかしくなるが、"僕個人"という言葉が気になったため尋ねれば、チャンピオンとしては複雑だという答えが返ってきた。

「トレーナーが成長するのは良いことだよ。でも、そう簡単にチャンピオンの座を渡すわけにはいかない」

僕も努力はしてきたからねと言われ、なるほどと納得する。

向かいの席に戻ったダイゴさんに、これからどうするのかと問われ、暫くはゆっくり休むことを伝える。

「カナズミシティの実家へ戻ります。侍女であるティアも、私のことを待っていますから」

「ご両親も、エリシアの帰りを待っているだろうね。それが良い」

窓の外が少しずつ暗くなってきたためお暇しようと立ち上がれば、察したのかダイゴさんも立ち上がり、リーグ入口まで送ってくれた。

空を飛べるチルタリスをボールから出せば、ダイゴさんに呼ばれて振り返る。

「エリシア」

「なんですか…、!?」

振り返るのと同時に彼の顔が近づいたと思えば唇に何か触れ、何が起こったか理解できぬまま彼は私から離れて笑顔で手を振った。

「いってらっしゃいのキスだ。道中気をつけて。近いうちに家に行くよ」

「っ、…必ずあなたを倒しますからね!!」

余裕の彼に、恥ずかしさから捨て台詞を吐き捨ててチルタリスに飛び乗る。

チルタリス、カナズミシティまで!と指示を出せば、彼女は楽しそうに、歌いながら大空に翼を広げた。
その歌を聞きながら、熱くなった頬を風で冷ます。

「あれはずるい…」

でも、彼に負けたとはいえ、とりあえず一旦の旅は終わりだ。







…そういえば、少し前にカントーの元チャンピオンが、ジムリーダーとして就任したとニュースでやってたなあ。
ジム巡りは順番の目安はあるとはいえ、絶対の決まりではないし、直接バトルを申し込んでもいいかも。

「カントーかぁ…。ちょっと遠いかも」

ミナモシティから船出てるかな。とポケナビで調べつつ情報収集を行う。


ふむふむ、噂のジムリーダーの名前はグリーンと。




…グリーン?










ニュース記事で顔と名前を見た瞬間、遠い記憶の彼方から記憶を引っ張りだした私はあんぐりと口を開ける。

だってこの顔と名前は、完全にあのボンジュールでバイビーな人じゃないか。


「…一応、ポケモンシリーズって時間軸近いのか」

そっとポケナビを鞄にしまい、チルタリスに捕まり直して考える。


あのグリーンかぁ。勝てるかなぁ。
…あ、ジョウト地方とカントー地方のジムを巡ってレッドに挑んで、彼に勝てるぐらいになればダイゴさんにも勝てるのでは?

…って、そこまでダイゴさんがプロポーズの返事待ってくれるとは思えないし、そこまで長期間待たせるのも申し訳なくて無理だ。

「グリーンに直接挑むかぁ。一応、一瞬とは言えカントー地方のチャンピオンだったわけだし…」

やるだけやってみようと意気込み、とりあえずは家に帰ってゆっくりしようと決める。

 

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