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「………うそ…」
目の前で起こったことを、まだ受け止めきれずにいた。
私のメタグロスは倒れ、彼のメタグロスはふらふらながらも、まだ戦闘に立っている。
私の手持ちは、既にみんな気絶状態だ。
「勝者、チャンピオンダイゴ!」
審判がコールをして、無情にもポケモンバトルは終了する。
負けたのか。
彼に、ツワブキダイゴに。
呆然としながらもメタグロスをボールに戻し、他のポケモンたちをボールから出してげんきのかけらを与えていく。
最後にメタグロスにげんきのかけらを与え、みんなをボールに戻せば、ダイゴさんから名前を呼ばれた。
「いいポケモンバトルだった。強くなったね」
僕も危なかったよ。と苦笑しながら言われ、ようやく彼に負けたという事実を受け入れる。
「…また、ダイゴさんに勝てませんでしたね」
言いながら涙が溢れ、慌てて洋服の袖で拭えば、彼に抱きしめられる。
「何度でも挑んでおいで。僕も、何度だって君を迎えよう」
強くなったね。頑張ったねと頭を撫でられながら言われ、彼の腕の中で思い切り泣いた。
* * *
「…取り乱してしまってすみません」
涙が枯れるまで泣けばスッキリとし、ダイゴさんから離れて頭を下げれば、気にしていないと首を横に振られる。
そこへ、タイミングを見ていたのかリーグスタッフが私を入口まで送ろうと呼びに来たが、ダイゴさんがそれを止め、別の場所へ案内するように指示を出した。
「彼女を僕の執務室へお連れしてくれ。積もる話もある」
「え?失礼ですが、挑戦者とはどのような…」
「彼女は僕の婚約者だ。……彼女を、僕の執務室へ」
最後は目が笑っていない顔でスタッフに指示を出せば、スタッフは慌てて返事をして私についてくるように告げた。
それに頷いて歩き出せば、ダイゴさんに名前を呼ばれる。
「僕もすぐに行くから、良い子で待っててね」
「……もちろんです」
子供扱いしないでください。
彼をジト目で見てしまったのは許してほしいと思いつつ、今度こそリーグスタッフについて行った。
「…驚きました。あなたがエリシアさんだったんですね」
ダイゴさんの執務室へ向かう途中、苦笑しながら話しかけられ、慌てて頷く。
どうやら彼は長期休職していて、最近復帰したばかりだったため、リーグスタッフに周知されている情報での漏れがあったようだ。
「名前だけは、今日の朝先輩に聞いていたんですが…。すみません、情報伝達不足で」
「いえ、気にしないでください。その前に、リーグに周知しているダイゴさんがおかしいんですから」
肩を落としながら言えば、彼も思うところがあるのか、特に否定もせず笑っていた。
それからぽつりぽつりと話しをしていれば目的の場所に辿り着いたらしく、一つの扉の前で立ち止まった。
「ここがチャンピオンの執務室です。こちらで、暫くお待ちください」
「ありがとうございました」
お礼を言って部屋へ入り、応接用のソファへ座って彼を待つ。
それなりの大きさのポケモンを出せるスペースを確保しているのか、執務室はクローゼットと机、応接用の机とソファ以外のものは無く、やけに広い部屋だった。
心細さからキュウコンをボールから出してブラッシングする。
心地良さそうに目を細めるキュウコンを見ながら、私は考えていた。
「キュウコン、私はもっと強くなりたい」
私の言葉に、キュウコンは目を開けて私を見つめる。私も彼の顔を見る。
「私はダイゴさんに負けたわ。もちろん全力を出し切ったし、さっきのバトルに悔いがあるわけじゃない。…でも、ずっと彼を目標にしてきたの」
ダイゴさんを超えたいのだとキュウコンに伝えれば、私の思いが届いたのか、ため息のような息を吐いて私に寄り添った。
「…ついて来て、くれる?」
もちろんだと一鳴きしたキュウコンに抱きつき、ボールに入っているみんなにも尋ねれば、みんな肯定するようにボールを小さく揺らした。
それを見て安心し、キュウコンのブラッシングを再開させた。
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