03
噂をすれば、今日も毛利さんと蘭ちゃんはやって来た。
というか、妃さんがいなくてご飯は大丈夫なのだろうか。誰が作ってるんだ。
「こんにちは。毛利さん、蘭ちゃん」
もう毎日のように通っている2人は、私のことを覚えてくれたらしく、挨拶を返して好きな席へ座った。
お水の入ったグラスとおしぼりを持って行き、注文を聞く。
2人の注文を聞くと、どうやら今日もここで夕飯を済ませるらしい。
蘭ちゃんはなにも言わないけど、流石に毎日同じような料理ばかり食べていたら飽きるだろう。
私は店内に飾ってある時計をちらりと見て、毛利さんにある提案をした。
「よろしければ、私がお二人の夕食をお作りいたしましょうか」
食費などもかさむだろうし、蘭ちゃんの栄養面が心配だと伝えると、毛利さんは申し訳なさそうな顔をしたが、蘭ちゃんは嬉しそうな顔をした。
「美咲お姉さん、いいの!?」
「おい、蘭!」
「だって、同じものばかりなんだもん」
蘭ちゃんはこの頃から、言うときはハッキリ言う子なんだなと苦笑した。毛利さんは困り顔である。
そんな毛利さんを横目に、蘭ちゃんは私になにを作ってくれるのか尋ねてきた。
「蘭ちゃんは何が食べたい?お姉さん頑張っちゃうよ」
「本当!?」
「もちろん。料理はけっこう得意なんだから」
それまでこれ食べててねと、ショーケースから持ってきた小さめのタルトが乗ったお皿と、オレンジジュースが入ったグラスを置き、毛利さんにはホットコーヒーが入ったカップを置いた。
「毛利さん、どうでしょうか。もちろん、私が好きで言っているので、材料費などはいただきません」
「お父さん、あたし美咲お姉さんのご飯食べたい」
蘭の後押しもあり、毛利さんはため息を吐いてよろしく頼むと笑ってくれた。
私も毛利さんに笑い返し、お礼を言ってからあと30分で上がる旨を伝えた。
「仕事が終わってからスーパーへ買い物に行ってきます。食べたいものがありましたら、仕事が終わるまでにおっしゃってくださいね」
「あぁ、悪いな」
「いえ。お気になさらず」
他のお客様がいらっしゃったから、一礼して毛利さんたちの傍を離れ、対応をする。
注文されたものをそのお客様のもとへお出しすれば、裏から財布を取り出し、先程毛利さんたちに出したタルトとドリンク代を払う。
私の一連の行動を見ていた祐樹さんは、不思議そうな顔をしていた。
「そこまで気にすること?毛利さんたちのこと」
奥さん出て行ったらしいから、毛利さんの自業自得なんじゃないの?と言ったから、苦笑してそれには頷く。
「でも、蘭ちゃんの栄養面が心配なのは本当なんです。これでも、けっこう蘭ちゃんのこと好きですから」
良い子なんですよと笑い、その後はお客様の来店も無かったから店内の掃除をして、お仕事の終了時間ぴったりに着替えに行く。
着替えて店内に戻ると、毛利さんの姿は既に無く、蘭ちゃんだけが席に座っていた。
「お待たせ。何が食べたいか決まった?」
「唐揚げが食べたい!」
「じゃあ唐揚げで、サラダもつけようね」
話を聞くと、蘭ちゃんは買い物に付き合うために待っていたらしく、私と一緒にポアロを出た。
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