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新しい家に引っ越して1週間(引っ越し当日もゼロさんは手伝ってくれた)。
新居がポアロに近いこともあり、ゼロさんがポアロでの閉店作業を終えると私の家にご飯を食べに来るというのが数回続いている。
まぁ、相手はゼロさんだから私も受け入れているが、黒の組織とかに目をつけられたりはしないのだろうか。そこだけが心配である。
そして最近の悩みは、また夜中に起きてトイレに吐きに行っていること。
ストーカーが出所したという事実を知ったあの日から、頻繁に起きるようになった。
幸いゼロさんにはまだバレてないが、いつ気付かれるかはわからない。
体調が悪いとでも言って、しばらくゼロさんに家へ来るのを控えてもらおうか。
「…うっ」
週末。
朝早くから溜まっていた家事をこなし、夕飯の買い出しに行き、帰ってくれば朝から動いて疲れたのか昼寝をした。
そして、毎日のように夢で見るストーカー。
あの日を脳が再生してるのか、クローゼットを開けて私の首を絞める場面が映る。
そして、私の意識が途切れるところで目が覚めてトイレに駆け込む。
「……ぅぇっ」
本当に、ゼロさんにここへ来るのを控えてもらおうか。
そう考えていたときに、家中に来客を知らせるチャイムが鳴り響いた。
携帯を見るとまだポアロが閉店していない時間だ。
ということは、ゼロさんではないということ。
じゃあ、いったい誰なんだろう。
でも、そんなことは今はどうでもいいか。
この倦怠感と吐き気をなんとかしなければ。
2度目のチャイムを無視して居留守を決め込んでいると、携帯から着信を知らせる音楽が鳴り響いた。
話せるまでは回復したので、相手を確かめずに電話に出る。
それがいけなかった。
「…もしもし」
「如月か。今インターホンを押したんだが、出ないから心配した。部屋の明かりはついているようだが、もしかして寝てたか」
ゼ ロ さ ん
電話の相手は、まさかのゼロさんだった。しかも先程のチャイムも貴方でしたか。
しかしまずい。今は電話に出られるが、ゼロさんを迎え入れてもてなす体力は到底無い。だが連日吐いているということを悟られるのも嫌だ。
とりあえず謝り、寝ていたことを肯定しようとした瞬間、前触れもなく一気に胃の中のものがせり上がってきて、トイレの中にぶちまけた。
咄嗟の判断で電話を切ったが、流石にバレただろうか。吐く時の声が入っていなければ、もう私的にOKなのだが。
一通り吐いて少し楽になり、トイレの水を流して水道水で口の中をすすいでいる時に、再び携帯が鳴り響いた。
画面に表示された名前はゼロさんのもの。
あぁこれ確実にバレたなぁと諦めて電話に出ると、少し強めの口調で家に入れろと言われた。
しかし、ここでゼロさんに甘えるわけにはいかない。これ以上、ゼロさんに負担をかけるつもりはないのだ。
「如月、聞いているのか。いいから家に入れてくれ。また昔みたいに吐いてただろ」
「ゼロさんのお願いだとしても、頷くわけにはいきません。事情がわかっているのなら、今日のところは帰っていただけませんか。…これは私の問題なんです」
一気に言いたいことを言って切ろうとすれば、電話の向こうから怒鳴りたいのを我慢しているように、今まで聞いた中で一番低い声で名前を呼ばれた。
「そんなに俺は頼りないか」
「そんなこと言ってません」
「だったら!!」
私が返した言葉に食い気味に怒鳴ったゼロさんは、一度深呼吸をして言葉を紡いだ。
「…だったら、家に入れてくれ。お前が壊れていくのを見ているだけなんて、俺はしたくない」
頼む。と切なそうに声を震わせて懇願され、私はため息を吐いて電話を切る。
重たい足を引きずって、壁に取り付けられているパネルを操作しエントランスからエレベーターへ続くドアを開いた。
「………はぁ」
こんなに早くゼロさんにバレちゃうなんて…。
今日、厄日なのかな。
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