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14.運命に逆らうことを諦めた少女(DC)
仕事を無理矢理休み、ホテル暮らしを始めて3日。
ゼロさんにホテルへと連れてこられた翌日に、新しい物件を見せてもらうために不動産屋に向かった。
4件ほど紹介してもらった部屋を見て、いちばんセキュリティがしっかりとしている部屋に決める。
お店の人に事情を話したらすぐに部屋をいくつか見せてもらえて、手続きも優先的に進めてもらったおかげで、来週には引っ越せることになったのだ。
そのことを電話で安室さんに伝えると、安心したように頷いてくれた。
「すぐにお部屋が決まったようで良かったです。あれから、あのストーカーはこちらに来ていませんが、美咲さんの家にまだ張り付いているかもしれません。いつごろ荷物をまとめる予定ですか?」
「明日の朝から1日かけてまとめて、あとは引越しの当日まで帰らないようにしようと思ってます」
「それがいいでしょう」
当然かのように手伝いを申し出されたが、申し訳ないからと断る。
しかし、「1人の時に狙われでもしたら大変だ」と言われて渋々頷いた。
「すみません、ご迷惑おかけしちゃって」
「気にするな。友人を殺されたくはないからな」
翌日の朝、ホテルに車で迎えに来てくれたゼロさんは、私を家まで乗せてくれた。
私の家の前に車を停め、どこから持って来たのか大量の新聞紙や段ボール、ガムテープを家の中に運び込んだ。
手際の良さに呆気にとられている間に、彼は車を近くのパーキングエリアに停めて家へと戻ってきた。
それからは、2人がかりで荷物をまとめていく。
私はまず衣類を。ゼロさんには食器類をお願いした。
冷蔵庫の中に残っていたもので昼食を作り、食べたらすぐに作業へと戻る。
朝早くから作業していたこともあり、その日の夜に荷造りと掃除まで終了した。
「本当にありがとうございました」
「いいんだ。これで、引越しの当日までは来なくて良さそうだな」
「そうですね」
本当に助かった。
私1人だったら1日で片付かなくて、掃除を含めると5日ぐらいはかかっていただろう。
「どこかご飯食べに行きます?お礼にご馳走しますよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えようかな」
* * *
ゼロさんとご飯を食べた後、引っ越すまでの期間、最低限必要な荷物が入った鞄をホテルに置いて、疲れていたためそのまま布団に入った。
会社は、上司が私の事情を知っていたこともあり、振替休日と有給を組み合わせて休ませてくれている。ありがたい。
「……」
目を閉じて思い出すのは、あの夜のこと。
恐怖心と戦いながらクローゼットに隠れ、見つかり、上に乗られて、そしてーーーー
「…っ」
急いでトイレに駆け込み、胃の中のものを吐きだす。
「…っはは、」
吐いたのなんて、いつ振りだろうか。
克服したと思ったのに、全然だ。
おかしすぎて、思わず笑いが出てしまう。
「あー……、」
もうなにもかも、めんどくさい。
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