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そうと決まればすぐ実行。
ということで、約束通りハムサンドを食べた後、安室さんに引っ越しの相談をした。
今日はカウンター席に案内されたので、カウンターのすぐ向こう側に安室さんがいる。
昔と反対の立場だ。
「最近物騒なので、もっとちゃんとしたセキュリティのある家に引っ越そうと思っているんですけど、どうですかね」
「それはいいお考えですね。この間も変質者が出ていますし、是非そうしてください」
「ですよねぇ。鍵とチェーンだけじゃ心配ですよね」
「鍵もチェーンも、外そうと思えば外せますからね。用心するに越したことはないです」
「ですよねぇ」
前科ありますしね。
返事をしながら携帯を見て、賃貸サイトの店舗に予約を入れた。
「いいお部屋が見つかるといいですね」
「本当ですね」
笑顔で返した直後に、何か嫌な予感がして、次いで首に締め付けられるような痛みを感じた。
思わず首に手を当てたせいで、腕に当たってマグカップを落としてしまった。
割れてはいないが、中身が飛び散ってしまってとてつもなく申し訳ない。
だがそれに構っている余裕もなく、いまここにいてはダメだと頭の中で警鐘が鳴り響き、とっさに荷物を持ってカウンター裏へと姿を隠した。
私の様子が可笑しいことに気づいたゼロさんは、私の行動に文句の1つも言わず、逆に心配された。
「如月…?どうしたんだ」
「すいません私にもわかりませんが、とりあえず今はダメなんです」
「一体何が…」
問いただそうとした時に扉が開き、そちらに目を向けたゼロさんは目を見開き、私は先程の嫌な予感はこれかと、首に手を当てた。
「…なんだ。美咲ちゃんはもういないのか」
「いらっしゃいませ。お席へご案内致します」
安室透として切り替えてカウンターから出て行き、カウンターから1番遠く離れたテーブル席へと案内した。
戻ってくるついでに先程私が溢したカップの中身とカップを片付け、カウンター内へと戻って来た。
「…もう出所したみたいだな」
「…どうしよう」
「とりあえず裏に行ってろ。後1時間で上がりだから送る。簡単にでいいから、家の荷物をまとめるんだ。部屋が決まるまでホテルで過ごせ。ホテル代は出すから」
行け。と背中を押され、何年か振りの休憩室に腰を落ち着ける。
休憩室には梓さんがいて、事情を説明すれば「むしろここにいてください」と言われた。
「一刻も早く引っ越さなきゃですね」
「そうなんですよ。とりあえず今の目標は、生き残ることですかね」
「洒落になってません!」
「事実ですよ」
その後は私が落ち着けるように温かいお茶を出してくれて、世間話に付き合ってくれた。
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