20
「…悪い。取り乱した」
「いえ。気にしないでください」
あれから数分後。
ようやく身体の震えが止まったゼロさんは私の身体を離し、照れくさそうにそっぽを向いた。可愛すぎか。
「生きて任務を終われそうですか?」
「どうだろうな。俺にもわからんが…。この国のためだ、まだ頑張るしかないだろ」
公安は、ゼロさんのように愛国心が強くないとやってられないだろうなと心の中で呟く。
仲間も失い、偽りの姿で日常を過ごし、潜入捜査とはいえ、犯罪に手を染めてまで、普通の人は国を守りたいとは思わないだろう。私なら思わない。
腕時計を見て時間を確認した私は、ゼロさんに明日は朝余裕があるか尋ねた。
「明日は、昼からポアロの仕事だけだ」
「夕方から働いていましたし、何も食べてないんでしょう?夕飯作りますよ」
私の家でもいいならですけど。と言えば、いつかの日のように呆れられた。
「前にも言ったろ。危機感を持てよ」
「おまわりさん相手ですよ」
「それでもだよ」
危ないだろ。と言われ、暫く2人で睨み合って、どちらかともなく笑い出す。
いつかの日のやりとりがまたできて、嬉しいのだ。私も、たぶんゼロさんも。
「まぁ、腹が減ってたのは事実だし、お言葉に甘えようかな」
「そうしてください。お仕事で忙しいんですから」
たしか冷蔵庫にはまだ食材があったはずだと考え、2人で車に乗り込んで私の家まで案内する。と言っても、引越したことは無いからゼロさんも来たことがある家なのだが。
近くのパーキングに車を停めて玄関まで来たゼロさんは、呆れた様子もなく、真剣な顔で私を見た。
「まだここに住んでいたのか」
「引越すのが面倒で」
「お金に余裕があるなら、すぐにでも引越した方がいい」
その言い方が急いでいるような感じだったため理由を尋ねると、以前私をストーカーした犯人が、順調にいけば刑務所から出てくる時期だろうと言われた。
「もうポアロで働いてないから、店に頻繁に来ることはないだろうが…。たまに客として来てるんだろう?そこを見られたらまたストーカーされて、今度こそ殺されかねない」
最後の言葉に、無意識に首に手をあてていたことに気がつき、我に返るとすぐに手を離した。
そして、玄関の鍵を開けつつ笑う。
「運がいいですね、私」
「いいどころか最悪だろ」
扉を開けて、ゼロさんを先に入れて部屋の中まで通した。
私も鍵とチェーンをつけて、部屋まで歩く。
「そうですか?だって、ゼロさんがいないときにあの人が現れるならまだしも、昔も今も、ゼロさんがいるときにあの人がいますから」
運がいいですと笑うと、ゼロさんは苦笑して携帯を取り出した。
「安室透の番号、登録しとけ。夜中にかけてきてもいいから」
「ストーカーは夜に乗り込んで来ますからね」
「あぁ。前科があるからな」
お礼を言いつつ番号を交換して登録する。
登録名はもちろん、安室透。
適当に座っててくださいと伝え、料理にとりかかった。
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