18
蘭ちゃんから安室さんが来たとの連絡を受けて1ヶ月。
本当に予定してた時に来れたなと1人笑う。
会社の繁忙期ということもあり、思った以上に仕事が立て込んでいたのだ。
会社に有給をもらい、昼下がりの暇な時間にポアロへ足を運ぶ。
いればいいんだけどと思いつつ扉を開くと、梓さんは休憩か休みか姿は見えず、ゼロさん1人だけだった。
彼は私を見て目を見開いたが、それも一瞬のこと。他のお客様もいるからか、安室透として接してくる。
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」
案内されるままテーブル席へと座り、ケーキとコーヒーを注文して、本を取り出す。
蘭ちゃんにはポアロにいることを伝えたし、学校が終わればここにくると言っていたから、来るまで長居させてもらうことにしよう。
あなたをゼロさんだなんて問いただしはしないから、とりあえずその熱い視線をやめてくれませんかね安室さん。
* * *
カランカランッ
「美咲さん!!」
「…こ、こんにちは、蘭ちゃん」
けたたましく扉が開いてベルの音が鳴り響く。
慌てて入口を見れば、制服姿の蘭ちゃんが勢いよく店内に入ってきた。
私も驚いたし、安室さんなんかは驚きすぎてグラス落とすところだったよ。
手をあげて引きつつも挨拶をすれば、笑顔で私の前の席に座った。
我に返った安室さんも、とりあえずはと蘭ちゃんに注文を聞きにきた。
「こんにちは、蘭さん。ご注文は?」
「安室さん、こんにちは。アイスコーヒーでお願いします」
「かしこまりました。こちらの女性はお知り合いですか?綺麗な方ですね」
そう言ってちらりと私を見た彼は、遠回しに紹介しろと蘭ちゃんに目で訴えていた。
いやだから、誰かの前で問いただしたりしませんって。
問われた蘭ちゃんは、安室さんに私のことを紹介し、私には彼の紹介をした。
「初めまして、安室透です。以前までこちらで働いていらっしゃったんですね」
気が合うなぁ。と笑顔で話しているのを思わずジト目で見てしまったのは許してほしい。
あなたも随分と通っていらっしゃったんですけどね。
「こちらこそ初めまして。如月美咲と申します。噂以上に爽やかな方で驚きました」
蘭ちゃんの話しから、もう少し体育会系の人を想像していたと伝えれば、安室さんは苦笑した。
暫く話して、今日はうちで夕飯を食べて行ってくださいと言われたから、久々に毛利家にお邪魔することになる。
事務所に行けば、いつもの席に夕刊を読みながら座っている毛利さんがいて、私に気がつくと新聞を畳んで笑顔で話しかけてくれた。
「美咲ちゃんじゃないか!久しぶりだなぁ」
綺麗になったなぁと言われて、少し照れる。
私も挨拶を返すと、ソファに座ってこちらを不思議そうに見ている少年に気がついたから、しゃがみこんでなるべく視線を合わせて挨拶した。
「こんにちは。君がコナン君だね。蘭ちゃんから聞いてるよ」
「こんにちは!蘭姉ちゃんの知り合いなの?」
「うん。何年か前は、ここに夜ご飯を作りに来てたんだ。蘭ちゃんにはその時、料理を教えててね。蘭ちゃん、すぐに上手くなっちゃって悔しかったなぁ」
「もう、美咲さんったら」
「本当のことだよ」
コナン君も、初めて知ったように頷きながら話を聞いてくれた。
…そうか。そういえば、あの時の新一君にも会ったことなかったな。
蘭ちゃんが夕飯を作っている間、毛利さんとコナン君と話を広げ、夕飯が出来たら食卓にお邪魔した。
初めて食べた蘭ちゃんのご飯は、既に私の料理の腕を越えていた。
「私でも敵わないなぁ。美味しいよ」
「そんなことないですよ!私、未だに1番好きな料理が、美咲さんのオムライスとスープなんです」
「ありがとう。じゃあ今度、久しぶりに一緒に作ろうか」
「いいんですか!?」
笑顔で食いついてきた蘭ちゃんにもちろんと返し、平和に食事の時間が過ぎていく。
コナン君には終始、物珍しいような顔で見られていた。
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