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季節は、冬にさしかかろうとしていた。
ストーカー事件があってから、ちょくちょくゼロさんと話す機会が増えた。
休みの日にご飯に連れて行かれたり、ゼロさんがポアロに遊びに来たり。
この人私しか友達いないのかな、と疑うレベルで月に数回会う。
今日も、ゼロさんはポアロに遊びに来ていた。
遊びに、というより、私と話をしに来ていた。
「ゼロさん」
「なんだ」
「私しか友達いないんですか?」
こうも会う頻度が高いと心配になりますよと言えば、阿保かと言われた。
「この俺だぞ。友人ぐらい、いるに決まってるだろ」
ただ休みが合わないだけだと言われ、なるほどと納得する。
ていうか、"この俺"ってなんですか。"この俺"って。
安心しましたと伝えればジト目で見られたが、スルーしてゼロさんの空いたグラスにコーヒーのおかわりを注いだ。
今日は特に暇な昼下がりだ。
お店の前の道も人通りがいつもより少なく、これではいつもの売上はとれないだろうなと推測する。まぁ、私的には暇な方が楽だから喜べるのだけど。
「今日は特に暇ですねー」
「その分、俺と話が出来て嬉しいだろ」
「そーですねー」
「棒読みだぞ」
「ゼロさんが面白いこと言うからじゃないですか」
あははと笑えば、ゼロさんは少し考えたように真顔になって本に目を落とし、少しするとおもむろに本を閉じて私を見た。
「如月」
「なんですか」
「俺が公安になったら、どうする」
「どうするって…」
何を言っているのだろうと内心思う。
なったらも何も、公安になるんですが。とは言えなかったから、心の中だけにしまっておく。
真剣な、けれども少しだけ不安そうな顔で問いかけられ、私はそれに少し可笑しくなって笑いながら答えた。
「どうするも何も、変わりませんよ。ゼロさんが公安になってもならなくても、ゼロさんはゼロさんですから。警察の降谷零も頼りになりますけど、私は普通の降谷零として、ゼロさんと仲良くなりたいんです」
っていう回答じゃだめですかね。と言うと、ゼロさんは驚いた様に目を見開いた後に、柔らかく笑った。イケメンだ。
「いや、良い回答だったよ。俺的にはな」
「なら良かったです」
ゼロさんが納得のいく回答で良かった。
けどそうか。公安になると潜入捜査もあるから、少し不安もあったんだろうな。
「ゼロさん」
「なんだ」
「何を不安に思っているのかわかりませんが、大丈夫だと思いますよ、ゼロさんなら。愛国心は人一倍強そうですし、芯はしっかりしてそうですから」
心が折れそうになったり、自分がわからなくなりそうな時は、いつでも話を聞くので呼んでください。と言えば、先程と同じ様に目を見開いた後に、笑った。
「頼もしいな」
「私は誰でもない、降谷零の友人ですから」
頼もしくないと。と笑って言えば、ありがとうと返ってきた。
うん、ゼロさんが来た時よりは顔が明るくなった…かな?
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