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ほら、とお茶を入れたグラスを机に置かれ、少しずつそれを飲み干していく。
グラスの中身を全て飲み終える頃には、すっかり身体の震えも止まっていた。
何回か咳を出して声が出ることを確認し、降谷さんにお礼の言葉を伝えた。
「ありがとうございました、降谷さん」
助かりましたと、少し掠れた声で言って笑えば、間に合ってよかったと笑顔を返してくれた。
「正直、危なかったです。もう少しで死ぬとこでした」
「だろうな。顔が真っ赤に変色しかけていた。鬱血してるだろうから、顔もふくらんでる」
生きてて良かったと言われ、素直に頷く。
「…にしても、私をストーキングする物好きなんて、この世にいたんですね」
「物好きの趣味は謎だからな」
どういう意味だ。
その後話を聞くと、血管を圧迫されていれば、首を絞められた後10秒以内に意識が落ちているだろうから、私は血管ではなく、気道の方を締められていたのだろうと言われた。
私からすればどっちでもいいが、とりあえず生きてて良かった。
あんな目に合うのは、もうこりごりだ。
その後も5分ほど話をしていると降谷さんの携帯が鳴り、一言二言会話すると電話を切って、私に警官の制服の上着を着せた。
「今から救急外来に行くぞ。パトカー回してもらったから」
「…この格好で、ですか?」
「着替える気力もないだろう。あからさまなパジャマじゃないんだから、我慢しろ」
有無を言わさぬ言い様で返され、仕方ないかと諦めて大人しく上着を借りる。
震えが止まったとはいえ、足元がふらついていたため、降谷さんは肩を抱き寄せて支えて歩いてくれた。果てしなく申し訳ない。
「すみません…」
「気にするな。今は自分のことだけ考えろ」
小さく返事をして、戸締りを確認してからパトカーに乗り込んだ。
(濃い夜だなぁ)
恋人との艶っぽい良い方じゃなくて、命の危険がある嫌な方の、だが。
病院に向かっているパトカーの中で、小さくひっそりとため息をついた。
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