なんだかすっごくいいにおいがした。
 おんなのこっていうのはどうしてこんなにおいがするんだろう。学年はちがってもだいたいおんなじような授業を受けてるはずなのに、俺は汗くさい気がしてちょっとはずかしい。気兼ねなくくっついてきてくれるようになったのはうれしいけれど、先輩なんかくさいなあ今日とか思われていないか不安だった。

 狩屋はずいぶんくつろいで本なんか読んでるけど、俺は鼻をかすめるこのにおいが気になって気になって、シャンプーなにつかってんのって聞きたいようなじゃましちゃいけないような。顔はみえなくて、体温だけ伝わってきて、ふれているところから発火しそうなくらいあつい。ほそい腰にまわした手が払いのけられなかったことにびっくりして る俺をさしおいて、ぱらりとページをめくる音だけやけに大きくきこえる。
 ……おちつけ、おちついて状況を整理しよう、俺。
 俺は霧野、霧野蘭丸、中学二年。この子は狩屋マサキ、一年、俺の彼女。そう、彼女。だめもと告白からはや三か月、けんかやデートをくりかえしながらなんとかここまできた。やっと家に呼んだ。なんか飲む? ってかっこつけて聞いた。お茶でいいですよっていうとこに惚れ直した。さいしょは、話してて、部活がどうの勉強がどうの、たのしくてそれだけだったのに、いつこうなった?

 彼氏に後ろから抱きしめられて座っているのに、狩屋はとくに緊張してないのか平然と本を読みふけっていて、ばかみたいにどきどきばくばく暴れる俺の心臓の音がばれてしまいそ うでこわい。ちいさなせなかがいとしくなって、あとかまってほしいなって気もすこしあって、衝動的にこんな。目の前に見えるつやつやした髪や制服からただよういいにおいに脳がマヒしておかしくなりそうだ。

 いつまでプラトニックを貫くつもりだと同級生に笑われるほど清いおつきあいをしてきたし、キスもまだかとばかにされもしたけど、たかがハグくらいでこうなってしまうのだからこの先になんて進めるわけがない。ちょっと手を動かせば狩屋のあんなとこやそんなとこをさわれるんだとか考えただけでもう。思春期まっさかりのくせに俺ってなさけないやつ。狩屋にもそのうち飽きられてしまいそう。

「……霧野せんぱい、あの」

 とうとつに呼ばれて思わずびくりと身体がこわば った。肩越しに振り返った顔がちかくて、かわいくて、黄玉のようなひとみからとたんに目がはなせなくなる。

「く、くすぐったいんで……あんまりそこでゆび、うごかさないでください」
「えっ、あ、ごめん、ごめんじゃまだった」
「じゃまじゃないです、けど、えっと……」

 ぽろり、狩屋の手から本が滑り落ちるのがみえて、あ、のかたちに口が開いた。取ってやらなきゃ、そう思って、俺が手を伸ばす、それとほぼ同時に狩屋も動いて、むにゅんとなにかやわらかいものが当たった。

「えっ?」

 本がやわらかいはずもない。背表紙に手をかけていた狩屋が真っ赤なほっぺたをして俺をみつめて、遠慮がちにせんぱい、と呼ぶ声がした。そこにあるちいさくてもたしかなやわらか さに脳内がじわじわ支配されてく。

「あ……」

 これはまぎれもなく。
 ほとんど不可抗力で手に力が入って、むにゅんともういちど弾力を感じたところでなにかがはじけとんだ。
 狩屋の、……狩屋、の。

「か、か、かりや」
「は、はい……?」
「おっぱい、おっぱいもんでもいいか」
「えっ、……えぇっ? あっ、ま、まってせんぱいっ、ひゃあっ」

 ふにふにふにふに、じつにいい感触だった。狩屋がふだんはださないような高い声で あっ とか んっ とか、それにも気分は高まって、調子に乗って制服のシャツのボタンにゆびをかける。「せ、せんぱい、だめえ」 狩屋は困ったように俺の手をおさえようとするけれど、ぜんぜんまったく力がはいってないからわらってしまった。

「かわいー声……」

 耳元で言ってやるとあわてて両てのひらで口をおおって、うるんだひとみでキッとにらんでくる。かわりに無防備な前をはだけさせて、しろいキャミソールに触れたらびくんとおおきく身体がふるえた。布地の上からでもわかるとっかかりに思わず喉がこくりと鳴る。

「狩屋、ちくびたってる」
「い、いやっせんぱい、もう……」
「いや?」
「こんなのっ、はずかし、しんじゃう、からあ」
「しなないってこんくらいじゃ」
「あ、あっやだ、やだぁせんぱい」

 かたくなにいやいやくりかえすので少なからずむっとして、つよめにちくびを つまんでやったら悲鳴にも近い声が上がった。「いたい?」 きいてもやだやだやめてえとしか返ってこなくて、なんだかすっごい悪いことでもしているみたいだ。わるいことじゃないって狩屋、俺たちもそろそろ次のステップにすすんだっていいじゃないか、なあ?

「これめくってもいい?」
「っや、あ、やめて、せんぱい、いやっ」
「……俺のこときらいになる?」
「そ、んなの、きくの、ずるっい、あ、あっだめっ」

 すべすべの肌が手になじむ。まだ育ちかけのふくらみをつついたりおしつぶしたり好き勝手やっていたらとうとう観念したのか、くったりと身をまかせてきた。ふわんとひろがるあのいいにおいであたまがいっぱいになって、狩屋がかわいくて、手を止めることなんてできやしない。スカートが重力にしたがってプリーツの縦線を乱 せば、しろいふとももがさらしだされた。いつも長めの丈に守られていたそれはひどく扇情的で、やわらかそうな丸みが目を奪う。

「あ、ぁ……」

 傷をつけてしまわないようにやさしく、やさしく撫でると、狩屋が俺の服をぎゅうとつかんで目を伏せた。まつげがいろっぽくて、おんなのこらしくてどきどきする。こんないたいけな子になにしてんだろうとだんだん正気にもどってきたけど、いまさら躊躇したってもうおそい。

「狩屋」

 呼んだらうっすらまぶたがもちあがる。ぷるぷるのくちびるにくちびるをくっつけたら、「んぅ」とちょっとびっくりしたみたいに目を見開いて、それからゆっくりと応えてくれた。

「……せ、んぱい……」

 すき。
 告げられたことばが うれしくて抱きしめるともぞもぞ動いて、正面から抱きしめ返された。「あの、ね、先輩なら、いいから」耳に息があたってくすぐったい。

「だからその、する、つもりなら、ベッドで……」
「え……いいの?」
「……ちょっとびっくりしましたけど、先輩急すぎて」
「ごめん……」

 狩屋のおっぱいって考えたらがまんできなくなっちゃって。言ったら恥ずかしそうにわらって、「こんなちっちゃいのでもこうふんするんですか?」 って、おおきさ関係なくおまえのだからなんだけどなあ。

「……えっと、……狩屋」
「はい」
「えっち……は、今日はしません」
「しないの?」
「うん、しない」
「なんで?」
「なんでって……そりゃいろいろだけど」
「ふうん」
「それで、あの、狩屋さえよければ」
「うん、なに?」
「……さ、さわるだけ……もうちょっと、いい?」

 なにをいまさら赤面してるのやら。いやでもやっぱりなりゆきで最後までするわけにいかないというか、下の部屋には母さんもいるし、こんなことになるなんて予想してなかったからゴムも用意してないし、また日を改めて。

「さわりたいの?」

 狩屋がわらう。ちょっと生意気そうな、最初であったころみたいな顔してわら う。演技だってわかってるけどどうしようもなくかわいい。

「さわりたい、です」
「……先輩って意外とえっちなんですね」
「……、狩屋のせいだよ」
「そう? じゃあほら、さわっていいよ」

 さっきまであんなふにゃふにゃだったくせにこいつは。俺の手をつかんで胸にもっていくから、意地悪してやろうとおもいきりわしづかんでみたら「きゃうっ」て、なにその声? 「狩屋、」 呼んだらうるうるした目、そうかただのつよがりでまだ恥ずかしいわけね。

「かわいい」
「……うるさい」
「狩屋かわいい」
「うるさいうるさいだまってもめ! 先輩のばか!」
「えっごめんなさい」

 おとなしくもみもみもみもみ、ときどきもれるちいさな声をききながら。ぐだぐだだし順番もムードもめちゃくちゃだけど、なんとか少し前進できた。これであいつらに報告、……は、まあいいか、しないでおこう。こんなにかわいい俺の彼女のこと、わざわざ教えてやりたくない。

「狩屋、すきだよ」
「おっぱいもみながらそんな真剣に言われても、決まんない……んっ」

 だよなあ、ほんとなっさけないな俺? でもせめて、いつかおまえを抱くときはかっこつけられま すように。



無題 20121125 miyaco
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