ずっと出窓にはりついているからいったいなにをしてるのかと思えば、どうやらガラスに当たって落ちる雨粒をながめているらしかった。楽しみにしていた外デートが中止になっても、狩屋はあいかわらず文句ひとつ言わないで、じゃあどこか屋根のあるとこに行きますか、さも当たり前みたいにそう問われて、まあそんなにお金もないし俺の家でってのがだいたいいつものパターン。はじめて来た日はあんなに緊張してたくせに最近はすっかり慣れたようで、ベッドでごろごろしたり漫画をあさったり俺の椅子に座ってくるくる回ってみたり、くつろぎ方が様になってきた。しめきったふたりきりの部屋のなか、窓の外の雨音と、時計の秒針の小さくて規則的な音だけが聞こえてる。
 朝から降りだした雨はしとしと、ゆるやかに稲妻町を濡らしていく。扇風機も暖房もいらない過ごしやすい室温に身体をゆだねて、床に座ってベッドの縁にもたれゆっくりと本のページをめくっては、たまに思い出したように狩屋の後ろすがたに目をやった。ぴょこんとはねた髪は湿気のせいかいつもよりふわふわして見える。シャツからのぞくやわらかそうな腕をちょっとさわりたいかもなんて思いながら、また活字に視線を落とす。

 狩屋と付き合いはじめてもう半年近く経った。数えきれないくらいいろんなはなしをしたし、部活がオフの日は決まってふたりでどこかに出かけた。狩屋は以前よりずっとたくさん笑顔を見せるようになったし、俺もつられてか、笑うことが増えた気がする。

 好 きだ、と思う。
 そりゃあもう、どうしようもなく。
 生意気でいやなやつだったあのころの狩屋はどこへやら、すっかり俺になついたみたいで、ぴとっとくっついてはかまってほしそうにちらちらと上目遣うその顔がたまらなくかわいいって、たぶん狩屋本人は知らない。

 数十分まえに飲み干したグラスのなかはからっぽで、そろそろ下でなにか注いで来てやるべきだろうか。文庫本にしおりをはさみ、「狩屋」 声をかけたら振り返る、黄玉に似たまあるい瞳。手まねきするとトテトテかけよってきて俺のすぐそばにちょこんと座って、なになに? と言わんばかりに顔をのぞきこんでくる。

「狩屋、ぎゅー」

 両手を広げて見せれば狩屋はちょっと首をかしげ、「ぎゅう?」と語尾にクエスチョンマークをつけながらも抱きついてくれて、それがうれしかったから背中に腕をまわしてやさしく抱きしめた。あったかいのがじんわり伝わってきて、とってもいいきもちだ。

「先輩ぎゅーっ」

 耳元で笑うからくすぐったい。ふわふわした髪の毛をそっと撫でると雨のにおいがして、こうやって人目を気にせずくっつけるからべつに俺も外にでれなくたっていいんだよなあって現金なことを考える。でもほ んと、狩屋といられるならそれで。

「はー……落ち着く」

 こいつが惜しみなく与えてくれるこのぬくもりが好きだ。ちっちゃくてふにふにした抱き心地もかなり魅力的。狩屋おまえ、俺専用の抱きまくらになれよーって、冗談めかしてそう言ったら、えぇーいいけど高いですよーって返された。いやじゃないのか。そっかあ。

「先輩ねむいの?」
「んー。……や、だいじょうぶ」
「とか言って、ひっついてたらいつもすぐ寝ちゃうくせに」
「そーだっけ」
「そうですよ」

 このあいだだって、俺動けなくてたいへんだったんですからね? 狩屋の声を聞きながらうんうん、あいづちを打っていたらたしかにだんだんねむくなってくる。いやでもそれは狩屋がいけないと思う、こん なにいいまくらはそうそうない。あったかくて、やわらかくて、柔軟剤のあまいにおいがして、おまけに俺のことが好きって言う。この心地よさをいちど知ってしまったらはなせるわけがない。

「ちょっと、もう。言ってるそばから寝る気でしょ」
「起きてるって」
「うそ。……寝るならベッドで」
「ベッド……」
「ベッド。はい立って」
「うーん」

 後輩に支えられて立たされるってなんだかなあ。ちっちゃなからだでいっしょうけんめい俺をベッドに寝かせようとがんばる狩屋がやたらかわいくてつい、上半身をねじってバランスを崩させ俺の代わりにシーツに落としてやった。「えっ、あっ?」 ぼすん、あお向けに転がった狩屋はぽかんとしていて、でもそれもつかのま、「なにそれ、ずるい……」 そんなこと言われたって俺、起きてるんだもん。

「だまされた」
「人聞きわるいな、霧野先輩はねむいなんて一言も言ってないぞー」

 にらんでくる狩屋におおいかぶさりながら、ふくらんだほっぺたをつついてやる。「むぅ」 はいはいかわいーかわいー。散らばった浅葱の髪をすくっては弄びすくっては弄び、そのうちに伸びてきた手がひかえめに俺の頬にふれる。こんな言い方するのもなんだけどどうやら狩屋は俺の顔が好きらしい。いやもちろん、顔だけが好きとかじゃなくて、なんていうかその、アレだ。……アレってなんだ。

「あーどうしよう、俺のほうがねむくなってきたかもしんない」
「マジか」
「うん。先輩寝ようよ」
「えー」
「いや?」

 いやじゃないけど。せっかくこんな状況まで持ち込んだんだからもっとこう、いろいろしたいこともあったりなんなり。

「ふわぁあ〜……」
「うわ、そのあくび顔写メっていい?」
「なに言ってんの先輩引くわ」
「引くなよ」

 だいたい彼氏 の部屋で、ベッドで、しかも組み敷かれてるというのに。ふだんは妙に懐疑心がつよいくせになんでこういうときにかぎって危機感が足りないんだろう。おまえのこと大好きな先輩がなにを考えるか、って、わかんないもん?

「なー狩屋ー」
「んん〜?」
「せっくすしたい」

 ねだるみたいにそう言った。狩屋はおどろいて目を見開くでもなく、いやそうにしかめるでもなく、ねむたげな顔から表情を変えない。変えないまんま、「ほー……」とかなんとか、感心半分呆れ半分のような、もしくはただねむそうな、音にちかい声をもらしている。

「そんな気分になっちゃいましたか」
「なっちゃいました」
「……」
「だめ?」

 狩屋の首筋に顔をうずめてすりすりしたら、んんん と低くうなられた。花のようなシャンプーの香りが鼻をかすめてどうしようもなく煽られる。これなに使ってんだろー、いいにおい。なかなか答えを返してくれないからそのうちじれったくなってきて、いつも髪に隠れてるところに唇を押しつけると、「こら」って短く叱られた。いいじゃんどうせ見えないんだから。

「なんか、先輩の家くるたびせっくすしてるような」
「そりゃー外じゃできないしさ」
「そういう意味じゃなくて」
「ご不満ですか」
「……、……明日、学校」
「やさしくするから」

 えぇー、っていかにも訝しげな声が上がって、まあそう言ってほんとうにやさしくしてやったことなんてほとんどないから当然か。毎回最初はちゃんとやさしくするつもりでいるんだけど 、そこはやっぱり俺も思春期の健全な男子だから仕方がないというもの。

「先輩のそれは信用できない」
「だよなー、ほんとごめんないつも」
「反省してるように見えません」
「だって狩屋きもちよさそーだし」
「……うるさい、ばか」

 すねたようにふいっと顔をそらしてしまうので、狩屋くんはちょっとはげしくされたほうが感じるんだもんなー? ってふざけてみたところ無言のまんま片脚で降りろとげしげし蹴られた。いたいいたいごめんごめん冗談だって。「はい、狩屋ちゅー」 そんなんでごまかされてたまるかって顔するくせに、いざ口付けてやったらほんの数秒でへろへろになって、「ぁ、んっ、」 って去年ランドセル背負ってたなんて信じらんないくらいに色っぽい声を出す。ざらざらした舌を絡めとっては吸って、離してはまた捕まえて、たまの息つぎは終わりを連想させるように少しだけ時間をかけて、でもその淡い期待までも飲み込んでまた、深くふかく。口の端からはふうふう荒々しい吐息がこぼれて、俺の服にすがる手のひらはかわいそうなくらい必死だった。

「ぷは、ぁ、はぁ」

 長いキスのあとは頭がはたらかないみたいで、両手首をひっつかんで床に落ちてたスポーツタオルでてきとうに縛ってるあいだも、狩屋はぽやーっとしたまんま浅い呼吸をくりかえすだけ。「きつくない?」 聞いたらふらふらと目線を頭の上にやって、「うん」 消え入りそうなちいさい声でそう言った。
 狩屋はこういうとき、なにをしてもたいして怒らない。はじめる前はあんなにぶーぶー言うくせに、ひとたび手を出すとすぐにこうなる。現に今だって、今日はこんなふうにするの? なんて、濁りのない瞳で問われてこっちが戸惑いそうなほど。性欲なんてまだ芽生えておらずそんな知識に興味さえなかったところを、中二まっさかりの俺が好きなように開発してみたら、おどろくほど従順でこんなにかわいいいきものになってしまった。神様バンザイだ。狩屋がいとしい。

「あー、えっと、なるべく、やさしくします。やさしくする、つもりです」

 自分に言い聞かせるように区切りくぎり言うと狩屋がとろんとした顔で見あげてきて、なんだなんだや っぱり信用されないかそりゃそうかと思っていたら、一言、「先輩、べつに、がまんしなくてもいいよ……」 なんて言うもんだから理性がぶち抜かれてがらがら崩れ落ちる。え、いいの。思わず間抜けな声で返してしまって、やっばい俺ちょうかっこわるい。いや、でもさおまえ、そんなん言うけど覚悟できてんの。やたら早口になってそうきいたら、狩屋はなんだかへにゃあってかんじにわらってる。

「だって、狩屋くんはちょっとはげしくされたほうが感じるんですもん」

 もう止まれませんがよろしいでしょうか。









 電気を消したら、ただでさえ薄暗い部屋のなか、もっともっとふたりぼっちになった。窓の外ではあいかわらず雨が降っていて、でもそんなこと気にしてる余裕もない。うすっぺらのシャツをめくって、上下する平べったい胸をそろりそろりと撫でたら、狩屋がくすぐったそうに身をよじった。

「ん……」

 ちっちゃいあめだまみたいなちくびをつまんだりこねたり、ぷっくりしてきたところでくちを近づけてやわく噛んだら息をのむ音がきこえる。「ごめん、いたかった?」 なるべくやさしく言いたかったのに、口から出たのはせっぱつまったようなみっともない声だった。俺は狩屋のことになるととたんになさけなくなってしまうからいけない。かっこつけようにもなかなか決まんなくて空回りしてばっかで、今日だってデートは中止になるし、ふたりきりだとすぐこういうことしたくなるし。 わらわないでちゃんと受け止めてくれる狩屋のやさしさにあまえて、どろどろに依存しているのは俺のほう。……へんだよなあ? 先に好きだって言ってきたのは狩屋なのに。

 これと言って味はしないけどぺろぺろぺろぺろ、舐めたり吸ったりしてると遠慮がちに見上げてきて「せんぱい、」うん、なに。だいたい想像つくくせに言わせようとするあたり、ほんと俺って。

「も っ、い、から、そこは」
「じゃあどこさわってほしいの」
「……、……し、した……」

 はずかしいのか目をそらしてそう言うので、加虐心を煽られてしかたがない。「ここ?」押し上げられたズボンに手を当てたら息を吐き出す音がきこえて、すこしだけ質量を増したのがわかった。狩屋の脚のあいだに移動してズボンといっしょにぱんつもひとおもいに脱がしてやって、ぷるんとふるえたそれに指をからませる。手のひらにおさまる小ぶりなサイズがやけにいとしくてなんどもなんどもしごいてやりながら、ベッド脇に置いておいたボディオイルのボトルに手をのばした。なにかのときにもらったこれもまさかこんなことに使うとは思ってなかったけど、いまや半分以下になってしまっていて笑えない 。この部屋で、このベッドで、くりかえしてきた行為のひとつひとつ、狩屋がかわいくてかわいくてそれだけしか覚えてないのがなんとも俺らしかった。

 プラスチック製のフタを指でぱちんと開け、もう片方の手のひらに垂らす。とろりとしたそれを狩屋のに塗りつけるようになじませ上に、下に、ゆっくりと手を動かした。

「あ、……ぁ」

 眉をよせて快感を受け流そうとするその顔がひどく官能的にみえる。両手を縛られて抵抗できないから、今日は顔をかくすこともかなわない。「狩屋かわいー……」 つぶやいたらうるんだ目でよわよわしくにらまれて、はいはいごめんって、ちゃんと集中しますから。

「んっ、う」

 左右に開かれた脚がぴくぴくはねて、あ、ちゃんときもちいんだなって思った。狩屋はいつもあんまり声をださないから、痛いおもいをさせてないか心配になる。オイルと狩屋のから出た液体でびちょびちょになった指をうしろにもっていくと、ちいさなからだがあからさまに強ばった。いまだに初々しいその反応がかわいくって、なかなか入れてやらずにいりぐちをつっついていたら、「ううぅ」とふまんそうにうなられてしまう。

「ほしい?」

 きいたらちいさく ばか、とだけ返ってきて、うん、俺、ばかになるくらいおまえのこと好きなんだよ、責任とってね。「ぅあ」 ぬるりと内壁をこすりながら中指をしずめていく。狩屋のいいとこはちょうど俺の指を曲げたとこにあってさわりやすい。こないだしたとき俺たちってからだの相性いいよなーって言ったら、先輩以外とせっくすしたことないんでわかりませんってなんか拗ねられたっけ。あれなんであんなぷんぷんされたんだろ? 俺だってこんなんするの、後にも先にも狩屋ひとりだけなんだけど。

「ひ、っ」

 ぐりぐりぐりぐり、ちょっとつよいかなってくらいに押すほうが感じるらしい。くちびるの隙間からもれる息が荒っぽくなってきて、まだ一本なのに今日はずいぶんよさそうだ。縛ってみたのはほんの好奇心と思いつきだったけれど、もともと本性はそっちっぽいとこあったし、狩屋はこういうふうにされ るのが好きなのかもしれない。調子のって脚を持ち上げて、からだがやわらかいのをいいことにほぐしてるところが見えそうな体勢にしてやったら、なかがきゅううっと締め付けてきた。「えっ、えっ? ちょ、」 後転のなりそこないみたいなかっこうをさせられて狩屋はふるふると首をふる、かわりに腸内はぐにぐにうねって、オイルたっぷりの指を動かすたびにすごい音がする。もがく狩屋の膝のうらがわをつかんでシーツに押しつけて、指を増やして二本、ぐっちゃぐっちゃいわせながらかき回した。

「ん、……ぅ、あッ……!」

 そのまま狩屋のよわいとこを重点的にいじってやってたら、ほっぺたを真っ赤にして「ら、らんまるせんぱぁい」っていつもみたいにとろとろにとろけた声で呼ぶ。もういれて、ってときはそう呼ぶようにってしつけたのは過去の自分なんだけど、いちいち心臓にわるいからこまる。「……マサキ、」手を止めていとしさをかみしめるように呼び返したら、状況ににあわないふに ゃふにゃしたえがおにまたもノックを食らう。かわいいなんてことばひとつじゃあ到底あらわせられやしない。
 じゃあお望みどおりとベルトを外してズボンを脱いで、あらわになった俺のを見た狩屋が「ほあぁ」とまぬけな声を上げた。

「先輩、その、なんか……おっきい、ね……?」
「んー」
「そ、そんなの入るかなぁ」
「なにをいまさら……いつも入ってんじゃん」
「そーですけどっ……」

 なにを思ってか目をそらすので、そんなにでかいかなあと自分で自分のにふれてみる。……ああー、うん、いつもより気持ちおおきめかも? あとなんかかたいような? なんにせよあれもこれもぜんぶ狩屋のせいだし。おじけづいたのか脚を閉じるくせに、たちあがった性器は先走りとオイ ルでぬるぬるてかてかしていて、真っ赤なほっぺたとあいまってすごく扇情的で。いつもがきくさい表情しか見せないくせにこんなえろい顔しちゃって、なんだかなあ。
 四角いふくろのはしを指でちぎって、くるくる巻かれたゴムを自分の先っぽに押し付けいつもみたいにするっと下までかぶせようとした、けれど、これは明らかにふだんよりきつくて付けにくい。

「おおぉ……」
「な、なに? 先輩どしたの」
「いや、でかくてゴム破れそうだわ」
「うえぇなにそれこわいやだぁ」
「うそごめん言いすぎた」

 苦戦しながらもなんとか付け根付近まで押し込んで、ゴムにもともとなじませられている油が手についたからとりあえず狩屋の穴あたりに塗っておく。「や、やだやだ先輩、入 んないぃ」 ここまできてぴいぴい泣き言なんてもらしてるのを見たのははじめてでなんかへんなかんじ。かたくなに閉じてる脚をくすぐったりなんなりしてもう一回開かせようと奮闘していたら、ふとあるものが目にとまった。こないだサッカー部で練習の息抜きがてらチーム戦したときの、色分けに使ったはちまきが床に転がってる。

「……なあ狩屋、こわいなら、見えないようにしよっか」
「は、……えぇ、それどういう」

 拾い上げたはちまきを目の前にちらつかせたら、数秒の無言のあとで信じられないという顔をされた。

「えっ、じょ、じょーだんですよね……?」

 怖じ気づく狩屋に笑顔で返して、細長い布をしゅるんとその目元に巻きつける。髪の毛をはさまないように気をつけながら うしろできゅっと結べばあっというまに完成だ。縛られた両手首に目隠し、まくれたシャツ、無防備な脚と濡れた性器。……なんだかすごく、すごくいけないことをしてるようなきぶんだ。

「やば、こうふんしてきた」

 首筋にくちびるをあてるとびっくりしたみたいに ひゃん、って声があがる。抵抗されないのをいいことに耳をゆるく噛んだりちくびをつまんでみたり、いつもは出さないかわいい声をひっぱりださせては思わず顔がにやけてしまう。狩屋に俺の顔が見えなくてよかった。こんなみっともないとこ見せるわけにはいかない。 俺が次にすることがわからないからか、うごきのひとつひとつに敏感なからだは触れるたびにぴくんぴくんとふるえる。いじくりまわしていたらだんだんたのしくなってきて、開きっぱなしのくちびるに噛みついてちゅうちゅう吸っては舐め吸っては舐め、せんぱいやめてぇと弱々しく懇願されるまで。

「いや?」

 きいたらこくこくうなずかれてちょっと面白くない。きもちいのはきもちいくせに。相変わらず上を向いた狩屋の をそっとしごきつつ、あそぶのをやめて真剣に取り組もうと思い直したけれど、目隠しのおかげで狩屋にはいまいち伝わらなさそうだ。

「ちゃーんときもちよくしてやるから、な、狩屋」
「い、いやです、とって」
「今日だけ」
「やだ、おねがい」
「俺もおねがい。……このまましよ?」
「う、ううう……」

 耳元でささやくように言うと、とうとうあきらめたのかからだの力がぬけて、これ以上させまいと俺を制していたふとももがくったりとシーツに横たえた。「いいこ」 うっすら汗ばんだひたいに軽くちゅーして、ゆるゆると手の動きを再開する。ひくついた狩屋のうしろはもう受け入れ準備ができているようで、さんざんいやいや言ったくせにほんとからだは正直だなあと。

「ひ」

 見えなくても感触でわかるんだろう。いりぐちにあてがったら息を呑む音がした。そのままゆっくりゆっくりなかに押し込んでいくと、狩屋が往生際わるくぷるぷる首を振る。

「や、やだやだはいっちゃうっ」
「ばーか、いれてんだよ」

 半分くらいはいったところでほそい腰をつかんで一度おおきくゆさぶったら、予期せぬ刺激に悲鳴にも似た声がとびだした。うねる内壁がきゅうきゅうしめつけてきてちょっとくるしい。もうすっかりなすがままになってる脚を抱えてそ っと動きはじめたら、見たことのないような反応がかえってきた。

「んぁ、や、っあ、ひぅ、あ」
「すげ、声……かわいい」
「い、ぁ、あっやっ、あ、あっあっ」
「おまえそんなふうに喘ぐんだ……」

 声は出さないタイプだと思ってたけど、あんがいそうでもないのかも。それとも俺がいままで下手すぎた? にしては毎回きもちよさそうだったし、実際きもちいって何度も言ってくれたし、じゃあ残る可能性は。
 小刻みに奥をつつきながら、かわいそうなくらい真っ赤になったほっぺたを見つめた。半開きのくちびるからはひっきりなしにあまい喘ぎがもれて、こいつ、もしかしなくてもいつもより興奮してる。

「ひ、あ、あぅ、あっ、あっあ」

 あったかくてきつきつで、 押しても引いてもきもちいい。シーツにしがみつくことすらできない狩屋はただただ与えられる律動にあわせてからだを揺らして、うわごとみたいにせんぱいせんぱいって俺を呼ぶ。

「やぁ、あ、せんぱ、あっせんぱい、あ、あっあっきもち、きもちぃ、あ」
「んっ、ん……俺も、きもち、狩屋ぁ」
「あ! あ、んん、っあ、ア、ぁ」

 肌と肌がぶつかるかわいた音が耳にひびく。オイルやら汗やら汁やらでふたりともべとべとで、抱えあげた膝裏はすべるしつながってるとこもぐっちゃぐっちゃいうし、なんていうかもう。すごく、えっちだ。

「……うぁ、っ! か、りやぁ、こら、しめ、すぎっ」
「あっ、あ、あ……ぅあンっ! や、っめ、そこぉ、あっン、ひぁ」

 がまんしなくていいって言ったのは狩屋のほうなんだから。目隠しなんかしてちょっとずるいような気もするけど、きもちいのを前にいまさら抑えるなんてむりに決まってる。それにもしほんとに明日足腰立たなくなったら、そのときは俺がおぶって登下校してやるつもりだし。
 勢いにまかせて狩屋のいいところをがっつんがっつん突いてやってたら、そのうち喘ぎにか細い泣き声がまざってきてとたんに心配になる。あわてて揺さぶるのをやめて、「えっえっ狩屋ごめんだいじょぶか」 って自分でもびっくりするくらい余裕のない声が出た。やっぱり調子のりすぎた? いたかった? やばいやばいどうしようまさか泣かせるとは思ってなかった。

「もっ、やだぁ、せんぱい」
「ご、ごめん狩屋、いたかったなごめんな」
「あ、ち、ちが、くて」

 狩屋がよわよわしく頭を振ったひょうしに目元をおおっていた布がななめにずれて、あらわになったそのしたの表情に思わずごくりと喉が鳴る。

「きもちぃの、こわい、おれ、へんになっちゃう……」

 いつもの目つきはどこへやら、目尻はとろんと垂れ、瞳はなみだでうるんで、ふにゃふにゃにふやけた顔はあまりにも俺の心をかきみだした。さっき打ち砕かれて残ったひとかけらの理性さえ、もうなんの意味もなさない がらくたに姿をかえる。

「ぅ、あっ! や、せんぱい、なかでおっきくしないで……」

 そんなこと言うからおっきくなるんだけどなあ、思いながらそっと上体を倒して狩屋の顔に近づいて、くしゃくしゃになった髪をなでた。「やめたい?」 きいたら一瞬ためらって、それからまた首を振る。「でも、見えないのはやだ……」 ちっちゃい子どものようなすねた言いかたにちょっと笑って、「やなの?」 もう一度問いかけた。

「だって、せんぱいなのにせんぱいじゃないみたいで……」
「えー、でも感じてただろ」
「……ああもう! ほんとにやめさせますよ」
「ごめんって狩屋じょうだんだって、つづきさせてくださいおねがいします」

 両手をあわせてたのんだら、まだ不満そうに真っ赤なほっぺたをふくらませる。「なに、俺はどうしたらいいの狩屋」 かはんしんがいまにもばくはつしそうなんですけど? わりと真剣に言ったっていうのに ばか、の一言で一蹴されてせつない。

「……、じゃなくて」
「えっ? ごめんなんて言った? もっかい」
「……かりや、じゃなくて! マサキって呼んでよ!」

 おもいきり言いはなったあとではずかしくなったのか、ふいと目をそらしてしまうから、かわいくてかわいくてなにがなんだか。「マサキ、つづきしてもいい?」 だらんと落ちていた脚をもう一度抱えあげると、ゆるまっていた結合部がきゅんとしめつけてきた。

「……いやって言ってもするくせに」
「だっておまえ、ぜんぜんいやそうな顔してないじゃん」

 きもちぃのだいすきだもんな? 答えをきく前に腰を引いて突き上げるように押し入ったら、なにか言いかけていたらしいくちびるからことばのなりそこないみたいな音がした。そのまま押しては引いて押しては引いて、鼻のあたりにひっかかってたはちまきをとっぱらって貪るみたいなキスをいくつも重ねる。舌を吸って、吐息をからませて、とけそうになるほどあまくてあつい口内をかきまわして。くちびるのはしからつーっとこぼれた唾液が色っぽくてどきどきした。

「ぁ、……っ」
「さ っきの声、もうださないの」
「い、つも、がまんして、んですから、あ、……んっ」
「なんで? きかせて。ききたい、おまえのきもちよくなってる声」
「や、っあ、だれかにきかれたら、ど、すんのっ」

 いま家には俺とおまえしかいないし、喘ぎ声って言ったってちいさめだったし、べつに問題ないと思うんだけど。一度耳にしたからには意地でももう一回ひっぱりだしてやりたくなって、わざといいとこばかりを狙って腰を動かしてみる。狩屋はそんな俺の意図に気付いたのかくちびるをきゅっとむすんで奮闘するけれど、やっぱりたえきれないらしくてちいさくあんあん言い出した。

「そうそれ、かわいい、もっと」
「ひぁ、……っばか、ぁ、あっン」

 じゅぷじゅぷやらしい音 を立ててなかをこすっていたらふと、いつものように狩屋がだきついてこないのがさびしくなってきて、がっちり固定されたまんまの手首に目をやった。自分で縛ったタオルのかたい結び目に苦戦しつつなんとかほどいてやって、じゆうになった細腕がすぐにせなかにまわってくるのがうれしくてたまらない。つぶしてしまわないように気をつけて抱きしめかえして、ふれあったとこから伝わってくる火照りがどうしようもなくいとしいと思った。

「あ、ぁ、やんっ、せんぱい、せんぱいっ」
「ん、っあ、マサキ……」
「んんっ、せんぱいっ、あっあっせんぱ、せんぱいすきっ」
「はぁ、……俺も、すき、だいすき」

 ちっちゃい手が俺の後頭部に触れてキスをねだる。上気したほっぺたを撫でて ふかくくちづけているあいだも下で動くのはやめないで、時々もらすくぐもった喘ぎもからめとってなにもかも俺のものにした。ぎりぎりのとこまで引き抜いて、前立腺をかすめて一気に押し込んで、そうやって繰り返していたらやがて狩屋が限界をうったえはじめる。「いきそう?」 きいてもちゃんとしたことばはかえってこない。快楽からの逃げ道を探してか無意識にふらつく腰をつかんで、ラストスパートとばかりに奥へ奥へうちつけたら、背を弓なりに反らせていっそう高く啼きだした。

「ン、ふぁ、あー、っあは、あ!」
「あっ、……く」
「いっ、ちゃ、うあ、やっあっいくぅ」

 ふるえながらつよくしがみついてきて、鈴の音みたいな声を上げて狩屋がいってしまう。くったりとシーツに横たわるからだを数回ゆさぶって、そのなかで俺も欲を吐き出した。
 射精の強烈な快感のあとでちからが抜けてずるずると狩屋にかぶさったら、ぽんぽんやさしく頭を撫でられてとたんにいいきもちになる。

「はぁ……」
「せんぱいおつかれさま」
「あーマサキかわ いいー……」
「ちょっいたいいたい髪の毛ささっていたいぐりぐりすんな! あともう名前呼びもいいですはずかしいから」
「マサキ……」
「きいてんのかこら」

 おまえが呼べって言ったんじゃん、ぶーぶー文句をたれながらからだを起こして、ふにゃけた自分のをゴムごとなかからひっぱりだす。「ぎゃっ」 さっきまでのえろい声はどうしたのってくらい色気のない狩屋にちょっと笑って、「みてこんなにでた」 口を縛ったゴムを見せたらあからさまにいやそうな顔して あほか、って冷たい。

「きもちよかった?」
「うるさい」
「よかったんだろ」
「もーいいからはやく!ティッシュ!」
「はいはい」

 うんと手を伸ばしてテーブルの上の箱をつかんでベッドの上にもってきて、数枚ひきぬいて狩屋のおなかやらおしりやらなにやらを拭いてやる。されるがままだった狩屋がなぜか突然むっとした顔で起き上がって、なんだなんだと思っていたらさっさとティッシュをぬきとって俺のをてきぱき拭いてくれてちょっと、いやかなり感動した。うおおなんだこれ。なんだこれ。「かりやぁあ」 がばあ、って効果音がつきそうなくらい勢いよく抱きついたら、びっくりしたらしい狩屋ごとバランスを崩してベッドに倒れ込む。

「ばかばか、先輩重いっ」
「狩屋すき」
「それはもうじゅうぶんわかりました」
「だいすき」
「いっだだだ、首しまる首しまる!」
「かりやあー……」
「もー、甘えたなんだから……」

 しょーがないですねぇまったく、なんて言いながら背中を撫でてくれる手のひらがやさしい。せっくすのあと毎回俺が狩屋にくっつきたがるのはこのやさしさがほしいからなんだけど、本人は気づいてなさそうなのでもうしばらくだまってることにする。
 窓の外は静かで、いつのまにか雨はあがったようだった。まだ夜まで時間があるし、なにかしようかとも思ったけれど、あったかくてここちよくてねむってしまいそう。狩屋もおんなじ気分なのか、重たげなまぶたを持ち上げてふわぁとあくびをした。

「服着る?」
「ん」

 床にちらばったふたりぶんのズボンとぱんつを拾って顔を上げると、狩屋はベッド脇にひっかかっていた若草色のはちまきを手で弄びながらぼんやり見つめている。「……目隠しはもういや?」 片方ずつ脚を持って元通り着せてやりながら何気なくそうきいたら、数秒ふらふらと目を泳がせて、それから消え入りそうな声で「……たまになら」 とつぶやく声がきこえた。




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