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 俺は、その時まだ熱い銃を片手に足元の血溜りに泳ぐ目ん玉を眺めていたのだ。気持ち悪いなあ。臭いなあ、新鮮なのに臭いなんて人間って綺麗な顔していても臭いから。イケメン俳優とか話題のアイドルとか、そんな誰もが手を伸ばす憧れのなんたらでも糞するし、腸は詰まってるし、内臓ぶちまければ臭いし。目の前でくたばってるスーパーコーディネーター様も例外なく臭い。腹に3つ穴を開けたらこうだ。割れた風船みたいに勢いは無かったけれど、十分、俺は満足したんだ。でも満面の笑みで、望みを叶えたよ!すごいだろう!俺だって!俺だって!って高揚感はなかった。それは、大事な何かを忘れているから。何かって、なに?ザフトレッドの裾が視界で揺れる。






 シン、シン。おきろ、シン。


 うるさい。いつもの小言を言う口が俺を不安そうに呼ぶ声がする。こいつもきっと中身は臭いし汚い。でも、どうしてかな。握られている手を握り返してしまう。きっとこの手だって肉と皮と骨と血と、あと俺の知らないいろんな何かでできている、綺麗とは言い切れないもの。なのに、なんでこんなに離したくないのだろう。見慣れた天井と、シーツ。9を差す短い針。いつもの俺のワンシーンの筈なのに、特別柔らかい感情になるのは何故だろう。

 「アスラン。」
 「シン、やっと起きたな。おはよう。」
 「アスラン、あのさあ…。」
 「うん。」
 「俺、あのさあ…これ言ったら嫌いになるかな。」
 「・・・さあ?それは言ってみなければわからないんじゃないか?」
 「別に今更って感じかな、嫌いになられてもいいんですけどね。」
 「そうなのか?」
 「うん…じゃなくて、俺さあ。」
 「うん。」
 「キラ・ヤマトを殺す夢見たんだ、今。」
 「それはまた…あれだな。」
 「うん。だから言っておこうと思って。人に言ったら正夢にはならないって言うじゃないですか?」
 「そうなのか?」
 「あー…。アンタはそういうヤツでしたね。まあ…そうなんですよ。」
 「失礼なことを言われた気がするが…。」
 「うん、まあ…嫌いになられるより、正夢になるほうが怖かったので言ってみました。」
 「・・・で?言ってみてどうだった?」
 「・・・お腹が空きました。」
 「はは、そうだな。朝ごはん、できてるから食べよう。」


 見慣れた天井も、シーツも。いつの間にか長い針が6を差した時計も、握られた手も、何もかも離したくなかったけれど。ずっとここに居るわけにはいかなかった。夢の中のあれは汚くて臭くて、夢の中のあれは少しオーバーだったかもしれないけれど、実際ああなんだろうと思う。それは彼だけに関わらず、皆が皆、きっと俺も、ああなんだろう。それでも、そんな汚いものだってわかっていながらどうして人は、こんなにも手放したくない、離したくないのだろう。どうして俺は、答えがわかってるくせに、どうして?と自問自答、投げかけてしまうのだろう。


 「アスラン。」
 「うん。」
 「人間って中身、結構汚いもの詰まってるけどさあ。」
 「?」
 「幸せになれるから、捨てたもんじゃないですよね。」
 「・・・そうだな。」


 そう、言いながら撫でられる頭の中身は脳味噌いっぱいで汚いけれど。アンタの手から俺の頭には幸せが擦り付けられている。きっと幸せに形はない。








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