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 シン・アスカが死んでいたそうだ。



 それは、なにも傷付けるものもない独房の中。その日、彼が起床したことを朝、番の兵士は確かに確認し、その後、暫く彼は壁を背に三角座りをし、動かなかったそうだ。それは一見、足の間から下をジッと見つめているかのような光景であったらしく、異変に気付いた兵士曰く「とても寒いような、そんな、でも背筋に汗が伝ったのです。だから、気付けました。」とのこと。それでも発見は遅かったらしく死後硬直故に、彼はその姿勢を崩せなかったそうな。これが彼の、彼自信が与えた故意のものなら、なんと悲しいものか。死因など聞いて呆れる、聞かなくてもわかる。ただ、ひとつ聞いたのが、「彼の顔は見れるものではなかった」ということのみ。もちろん俺は見ていない、見る気もなければ資格もない、酷く言ってしまえば価値もない。価値がないのはシン・アスカに、ではない。



 シンにはまだ価値はあったはずだった、誰かに愛され、誰かを愛し、誰かを笑わせ、誰かを泣かせ、誰かと、誰かと、何かを。沢山のものを失ったとしても、彼にはなんにもないなんてことはないだろう。故に、彼が何故あのような行動に出て、自らは悪だ。罰せよ。等と喚く必要があったのだろうか、どうせ死ぬなら、そんなこともせず死ねばよかったものを。ただ、ここで重要なのは俺は彼に死んでほしかったわけではないということ。あれだけ責めるような真似をしておきながら、しゃあしゃあとよくいう。なんて、イザークなら言いかねない。ただ、俺は彼に、こう伝えたかった。【俺はお前が死んだら悲しいよ】それだけ、それ以外は、あの頃となんら変わらない会話でしかない。



 彼の墓らしくない石を前にすると、どこか寒さを感じた。彼の墓は、オーブの山の奥に、そこはまるで誰も来るなと言わんばかりの鬱蒼さであった。周りは草木が生い茂り、緑の噎せ返る香りがする。ラクスは彼の事実は誰かに知らせることなど、特にしなかったようだ。ラクスに、何故かと問うとたが「彼に正解を与えたくはありません。」と、俺のはラクスの言っている意味がわからなかった。あいつにとっての正解?それは俺達にとってのなんだ?ラクスは意地悪などでそのような真似はしないはずであるから、これは何か考えがあってのことだろう。だが、俺は知らせた。これは俺にとっては正解だからだ。少し離れた所で、ルナはメイリンの肩に顔を埋め、嗚咽と後悔を吐き出していた。



 あの戦争で何かを、彼等は勝ち取ったはずだった。勝ち取った何かが負けだっただけだ。彼が死を選んだことが正解ならば、レイも恐らく正解であろう。そして、こうして生にしがみついて、傍から見れば人を殺したことを無かったことのように暮らす俺達は不正解。人を殺して、次の日には笑って飯が食えるなんて神経は、戦争さえなかったら糞のようなものだ。それを俺達はあの頃やっていて、ああも反動が出ても仕方がないといえばそうだが、逃げることが正解だというのなら、贅沢な問題なのではないか?夕日に背中を焼かれる感覚に、ここは地球ということを思い出させられた。



 メイリンが大事そうに墓石に花を捧げた。それを見て背筋が凍るとは正しくこのこと、世界が冷えた。どうして今まで気付かなかったんだ。あの時、あいつは言った。『アスランは、俺が死んだら、悲しいですか。』思い出したら沸々と笑いが込み上げてきた。シン・アスカにとっての正解は逃げなんてものじゃなく、ただの安心だったのだ。単純で、馬鹿な奴だ。



 明日、また来るから、安心して寝ていろ。




 生きていた





 でも、死んだ。












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