※マイナス10年齢操作みな春がどうしてこうなったの春奈ちゃん宅の晩ご飯立向居くんバージョンです



「なんかもう、面倒になったから出ていけ」

十年来の悪友は容赦なく俺を部屋から叩き出した。それでもギシギシと軋む階段で、相談してるんだろ?だから面倒だっつってんだよ、と言い争っていると、おたまを持った木野さんが、立向居くんも木暮くんも何してるの?と姿を見せた。言い合いに夢中で気付かなかったが、いつの間にかここの住人のほとんどが廊下から階段を眺めていた。
騒いですいませんでした、と木暮と二人で謝ると、どうかしたの?と木野さんは首を傾げた。秋さん、俺絶対悪くないと思うんだけど、と木暮が事情を話し始める。

「……そうだね、木暮くんは悪くないね。じゃあ、行ってらっしゃい立向居くん」
「え、待って下さい!」

今度は話を聞いた木野さんに木枯らし荘の玄関ドアを閉められそうになり、慌てて体を挟み込んだ。だから言っただろ?と言わんばかりに木暮が呆れ顔をしている。

木暮や木野さんとの付き合いとほぼ同じ長い期間、ずっと片想いしている女の子がいる。二人とも、いや、俺と彼女を知る人のほとんどがそれを知っている。知らないのは彼女だけだ。時々遊びに行くこともあるが、未だに告白までたどり着いてはいない。というか、遠回しに言っても気付く気配が全くない。それをいつものように悪友に相談していたら、飯でも誘って来い、の一言で片付けられた。そう簡単に言うけど、彼女は仕事で結構忙しいし、突然誘って迷惑じゃないかな、とか考え出すとなかなか実行に移せない。
はぁ、と木野さんがわざと大きく息を吐いた。あのね、立向居くん。は、はいっ。

「音無さんはちゃんと言わないと多分気づいてくれないよ?だからほら、まずはご飯誘っておいでよ、忙しかったらそれは仕方ないんだから。私も一人前、多めにごはん作っておくから、ね?」
「……頑張り、ます」

木野さんにそこまで言われて、誘えません、とはさすがに言えなかった。ま、駄目だったら明日朝遅いから戻って来いよ。何だかんだで木暮もいい奴だ。よし、と自分に気合いを入れて携帯を取り出した。

「立向居くん?どうしたの?」
「あの、音無さん今日忙しい?もし暇だったらご飯でも、」
「あ、ごめん、晩ご飯の準備始めちゃった」

……まぁ突然誘ったところでそんな返事が返ってくる可能性だってあった。そっか、ごめんね、と電話を切ろうとすると、あ、待って、と高音の音無さんの声が耳に響いた。

「もしよかったら、うち来る?」
「え?」
「玉ねぎ切ったら量多くなっちゃって。あ、外でご飯食べたかったならいいんだけど」
「い、行く!行ってもいいの?」
「うん、どうぞ」

電話を切った後、時計表示の画面を眺めて夢じゃないか、と余韻に浸った。音無さんの手料理なんて何年ぶりだろう、それに部屋に入るのは初めてだ。急いで寄ったケーキ屋のバイトの子に何も言っていないのにくすくす笑って、デートですか?と聞かれるほど俺は舞い上がっていた。


家に送ってきたことがあるから、場所だけは知っていた。ケーキの箱を抱えながら走って着いたマンションのインターホンを鳴らす。

「はい。……だれだよ?」
「あ、すいません、間違えました!」

ドアの隙間から迷惑そうに顔を見せたのは、小学校に入らないくらいの男の子だった。あぁ、舞い上がりすぎて間違えた。そう思い、部屋番号を確認した。あれ、合って、る?
おかしいな、まさか引っ越した?いや、だったら言ってくれるはずだ。うーん、とドアの前をウロウロしていると、さっきのドアが開いた。

「やっぱり立向居くん。何か物音聞こえると思ったんだよね」
「あれ?音無さん?」
「せんせー、こいつだれ?」

部屋着姿の音無さんと、その後ろからさっきの男の子が顔を見せた。え、誰?

「……まさかいっしょにごはんたべようっていったともだち?」
「うん、そうよ。あ、上がって」
「あ、お邪魔します」

せんせーごはんつくってんだろ?おれすりっぱだす、とツンとした顔立ちの男の子は音無さんをキッチンに促した。揃えたスリッパを出してくれたのでお礼を言うと、思いっきり睨まれた。

「じゃましにくんじゃねーよ、ただのともだち」


音無さんが事情があって預かっているというその男の子は、とにかく俺が気に入らないようだった。音無さんに話しかけようとすれば、ねぇ、せんせー、と可愛い声で話しかけ、手伝おうか、と申し出るとひまならあそんでやるよ、とトランプを持ってきた。しかも、事あるごとに「ただのともだち」と呼ぶ。それはそうなんだけど、言われると少し傷ついたりもする。

そうこうしているうちに、二人ともご飯出来たよ、と音無さんの声がかかった。なんか新婚みたいだなぁ、なんて思っていると、脛をあつしに蹴られた。……声にならないくらい痛い。

テーブルの上には美味しそうなナポリタンとサラダとスープが並んでいる。そしてはい、どうぞ、と微笑む音無さん。うん、可愛い。隣に座っているあつしも音無さんを見て頬を赤く染めている。あ、なんかちょっとこの子と気が合いそうな気がする。
二人とも、どうしたの、食べて?音無さんの言葉に我に返る。あ、と隣から小さな声が聞こえた。

「あつしくん、どうしたの?」
「……ぴーまん」
「あつしピーマン、苦手とか?」

子どもはピーマン苦手な子多いよなぁ、とナポリタンの中のピーマンを見て思った。あつしはちょっと生意気だけど、音無さんのことが好きな子だ。妙な仲間意識から、もし苦手だったら食べてあげようか、そう言おうとしたときだった。

「きらいだけど、たべる」
「そっか。あつしくん偉い偉い」
「すきなおんなのつくったもんだから。なかれたらこまるし」
「……うん、ありがと」

……え?何だこの彼氏と彼女みたいな空気。いや、あつしは五才だし気のせいだよな、うん。
そんなことを考えていると、俺のナポリタンの皿のパスタがいつの間にかなくなっていた。だけどピーマンはきれいにあった。隣をちらりと見ると、ケチャップまみれの口をあつしが動かした。声は出さずに喋る。

(おれのせんせー、ちらちらみてんなよ、ばーか)


その後、散々あつしは音無さんとどれだけ仲がいいのか見せつけた挙げ句、ねむい、と音無さんに抱きついて俺を部屋から追い出した。
ぐう、とお腹が鳴ったので心配をかけたこともあり木枯らし荘に向かった。そうして、木野さんの料理を食べながら事の顛末を笑い話のように話していると、木暮と木野さんは真剣に顔を見合わせた。

「……まずいな」
「……ええ、まずいわ」
「えっと、何がですか?」

そんなに深刻になる要素があっただろうか、と首を傾げていると、お前何年あいつ見てるんだよ、立向居くんも鈍かったんだ……とすっかり呆れられてしまった。だから何がですか?と食いつくと、木暮が言いたくなさそうに口を開いた。

「あいつ、ショタコンの気あるだろ。自分で言うのもなんだけど、昔俺のことすげー構ってたし、今だって天馬とかといるときやたらにこにこしてんじゃん」
「……ショタコンは言い過ぎかもしれないけど、子ども好きだものね。下手に年上の人よりずっと強敵なんじゃないかな」
「……嘘」






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