※一定時間で元に戻るらしい南沢さんは、戻らなかったのでとりあえず春奈ちゃんの家にいます。



目が覚めた瞬間、血の気がサァッと引いた。
見覚えのない部屋のベッドで寝ていた上、隣に音無先生がいて、首の後ろに腕を絡められていた。……ちょっと待て。俺、何した?

前後の記憶が全くない。加えて何だか微妙に小さい服(おそらく彼女のものらしい)を着ている。ということは何らかの事情で着替えたということになる。考えれば考えるほどロクな想像が出来ない。とてもいい状況に見えるが、ここでラッキーとか考える奴は馬鹿だ。財布に身に覚えのない大金が入っていたら怪しむのが普通だ。
いや、落ち着け。ちょっとあの馬鹿たちのことでも考えよう。ちゅーか、寝顔可愛くね?あぁ、もう何だっていうんだよってくらい可愛いけどそうじゃねぇよ。聖職者に何てことを……。教師が聖職かどうかはともかく、そういうことになるよなぁ。何とかなるさ!ならねぇよ!もう駄目ですよ……取り返しが付きません……。……そうなるか。
頭をフル回転させたが、結局たどり着いた答えは一つだった。

で、次に考えたのはそれについてだ。俺は誰にも気取られることがないように彼女をずっと見ていたので、何で記憶ねぇんだよって話だが、はっきり言って彼女は生徒を恋愛対象でなんて欠片も見ていなかった。つまりは、こういう状況に至るには、どう考えても記憶のない自分が無理矢理したとしか考えられない。自分で言うのも情けない話だが。そして、だとしたら音無先生は何でこうもすやすや眠っているっていうのか。
呑気な顔で眠る彼女の頬に親指で触れてみると、柔らかい感触だった。夢、にしてはリアル過ぎる。ん、と彼女が身じろぎをして薄く瞼を開いた。

「……あつしくん?……子どもはまだ寝る時間、」

首に回された腕をそのまま引き寄せられた。ちょっと動けば顔が触れそうな距離な上、腕の辺りに当たるふにゃりとした感覚。つーか、これ絶対夢だろ。何か名前で呼ばれてるし。疲れてて、いい夢くらい見ろって神様が言ってんだな。そう確信した、その瞬間だった。

「きゃあああああ!」

耳をつんざくような悲鳴がした。ぱちりと目を開いた音無先生が俺を見て口をぱくぱく動かしている。この耳の痛みは、現実だ。
一応これまで内申馬鹿と言われようがマトモに生きてきたつもりだった。さよなら、俺の人生。頭を抱えて、肺にある全ての息を吐いた。

「ごめんなさい、大きな声出して。びっくりしちゃって。えっと、これは違うから!」
「は?」

音無先生が武器は何も持っていませんとばかりに両手を挙げる。え、何だこれ。

「あつしくんが眠たそうだったから寝かしつけてたら一緒に寝ちゃったの。まさか起きたら戻ってるなんて思ってなくて。別に変なこととか何もしてないから!」
「……説明が全然わかんないんですけど」

とりあえず犯罪者という最悪の事態ではなさそうだが、これはこれでさっぱり訳がわからない。そもそもありがちな少年漫画で何もしてないから!なんて言うのは大抵男の方だ。(そしてお約束のように馬鹿!と女に殴られる)
えっと、どこから説明すればいいのかな。ベッドの上で正座した音無先生がうーん、と首を捻った。で、最初に出てきた言葉は「知らない人から物をもらっちゃいけないって知ってる?」だった。


「……それでね、とりあえずお家に帰すわけにもいかなかったから家に連れて来たの。ほんっとに何にもしてないからね?」
「つーか、何かしてたら小児性愛者じゃないですか。あの、何か色々すいませんでした」
「謝らなくてもいいわよ?可愛かったから」

小さくて、せんせーせんせーって言ってくれたの、と何故か音無先生は嬉しそうだ。
所要時間三十分の説明によるとこうだ。やたらキラキラした男に突然願いを聞かれた俺は、冗談半分で「十歳若くなる薬が欲しい」と言った。すると、事情を散々勘ぐった男はじゃあ試してみようかと飴のようなものを俺の口に突っ込んだ。そこまでは覚えている。
それは、本当に十歳若くなる薬だったらしい。で、偶然音無先生と遭遇してやたら懐いた。ったく我ながらいい趣味してんな。半日遊んで、戻らなかったので先生は俺を家に連れ帰った。そしてこの状況に至る、そうだ。

可愛かった、ねぇ。にこにこ満足気にしている音無先生に水を差すのも悪いから言わなかったが、多分俺はそんなに可愛い子どもではなかったと思う。昔から「可愛い」より「大人っぽい」と言われることのほうが遥かに多かった。それでも可愛がってくれたということは先生はやっぱり子ども好きなんだろう。ま、じゃなきゃ教師なんてやってらんないんだろうけど。

「それでね、ピーマン入ったナポリタン、あつしくん嫌いなのに、たべてやんないとせんせーないちゃうだろ?って食べてくれたの。もうお嫁に貰って、って……あぁっ!」

身振り手振りで子どもの俺について話していた音無先生が突然大声を上げた。何だ!?つーかさっきも思ったけどその叫び声、耳に痛い。

「何にもしてないって言ったけど、ちゅーしちゃってた……」
「は!?」

思わず反射的に唇を押さえた。いや、覚えてないから感覚なんて勿論ない。どーしたらガキとそうなるんだよこの人。音無先生もやっぱり同じように唇を押さえている。

「……お嫁さんにしてあげるって言われて誓いのキスをされたんだけど、でもこのままもし私が行き遅れても気にしなくていいからね?犬にでも噛まれたと思って?」

だからその台詞も普通女は言わないだろ、じゃなくて何してんだよ俺。今なら恥ずかしさで死ねる、普通に。つーか、ガキの自分に名前呼びで添い寝でキスでプロポーズとか、先越されまくってるってありえねぇんだけど。
だからって、同じことをできる(というか、して許される)自信はないわけで。いっそ責任取りたいからマジでこの人行き遅れてくんないかな。





※ちなみにナポリタンは遊びに来ていた春奈ちゃんの彼氏もしくはいい感じの人と三人で食べました。
「この色使いに愛を感じるね」とか言ってあつしくんに蹴られたヒロトさんorどれだけ食べられるか争った佐久間さんor手料理に感動しているうちにあつしくんに食べられた立向居くん、お好きなカプでご想像下さい






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -