黒い車は嫌いなの、と言ったら、次の日は白い車になっていた。車高の低い、あんまり見たことがないスポーツカー。ベンツよりはマシだけれど、やっぱり趣味が悪いと思った。正門の前に横付けされた車。さっきまで談笑していたクラスメートが、夕香またね、とちょっと変な顔をしながら遠ざかって行った。

「迎えに来なくていいんだけど」
「彼に頼まれましたから」
「変な車ね」
「お気に召しませんでしたか?」

じゃあ次は違う車にします、と虎丸さんは前を向いたまま言った。電車か歩いて帰る。それはできません、あなたに危害を加える人間がいないとも限りませんから。

わたしは虎丸さんがあまり好きじゃない。白っぽいグレーのスーツも、変な手袋も全然似合っていない、何でもお兄ちゃんの言うことを聞く人。きっとわたしがどんなに酷いことを言ってもちっとも傷付かないんだろう。
だってたぶん虎丸さんはこの車がとても気に入っている。

鞄の中からクラスの子に貰った緑色の箱を出す。煙草は二十歳からですし、匂いで彼が心配されます。やっぱり前を向いたまま言われ、何となく吸う気がなくなった。そういえば、ライターを持っていなかった。

「わたし、普通の女子高生がしたいの」
「しているじゃないですか」

カトリック系の、挨拶は「ごきげんよう」、貞淑がモットーのお嬢様女子高。そこに毎日毎日変な男の人の送り迎え付きで通うピンク色の髪のわたしは、普通の女子高生なんだろうか。ピンクの髪は、よく似合うと言われるので気に入っている。お兄ちゃんの忠告に従って、ブルーにするのをやめてよかった。

「男子サッカー部のマネージャーをして、学校帰りにマックに寄って、電車で痴漢に遭いそうになりたかったんだけど」
「そうですか……最後だけは同意しかねますね」

そんなこと彼に言ったら泣いてしまいますよ、と虎丸さんは少しだけ笑った。笑ってサッカーしているのが似合っていたこの人が、女子高生の送り迎えをしているのはやっぱり似合わない。何だかすごくいらいらする。いらいらしたので、ローファーを脱いで、ハイソックスも脱いだ。

「マネージャーもマックも痴漢も我慢するから、虎丸さん足、舐めて」
「……そうすれば、彼の前で可愛い妹でいてくれますか」

そうして、虎丸さんは安っぽい派手なホテルでベッドに座ったわたしの足を舐めた。
全然気持ちよくなんてなかった。でも、クラスの女の子たちが気持ちいいというようなことをする気にはならなかった。そんなの、気持ち悪くて吐き気がする。
わたしはブレザーも着たままで、虎丸さんは変な黒い手袋をしたままだった。車を触るときみたいに優しく、そっとそっと舌がふくらはぎをなぞる。運動をしていない、筋肉のない、ふくらはぎ。虎丸さんのスーツの下には、きっとお兄ちゃんみたいな筋肉のついたふくらはぎがあるはずだ。やっぱり、そのスーツ全然似合ってない。

そんなことを考えていたら、視界がぐちゃぐちゃと歪んだ。足元に見えるのは黒い髪、白っぽいグレーのスーツ、黒い手袋。大好きなサッカーボールと同じ色だった。








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