※GO鬼道さん帝国総帥復帰後



円堂さんは、時々わたしに「おつかい」をお願いする。それはお願いの形を取ったちょっとした甘やかしで、行き先はいつも帝国学園と決まっていた。兄さんが総帥に復帰してから会う機会が減ったのを気にかけてくれているのだ。勿論、プライベートでは時々会うのだけれど。わたしもわたしで、メールで済むような用事を「届けておいてくれないか」という円堂さんに、ついつい甘えてしまう。

帝国学園の警備は厳重だ。門の前のインターホンに名前を告げると、ほどなくして佐久間さんが迎えに来てくれた。肌も髪も妙にきれいで、ちょっと悔しくなるくらい何だか生き生きしている。
世間話をしながら佐久間さんの左側を歩く。昔より背が伸びてきっちりスーツを着た佐久間さんは大人の男の人みたいだ。いや、紛れもない大人の男の人だった。
毎回迎えに来てもらってすみません、と謝ると、迷われるとここで探すの大変だから構わない、すぐ迷いそうだからな、と言われてしまった。すました雰囲気なのに、時々こっちを見ながらからかうようなところは変わっていないんだなぁ。そういえば、この人にちょっと憧れていたことを思い出した。

兄さんと再会した年、今何が好きなのかわからなかった誕生日プレゼント選びに付き合ってもらった。困って半泣きだったわたしに、泣くな一緒に選んでやるから、と呆れながら付いてきてくれたのだ。それから三年間は毎年一緒にプレゼントを選んだ。それが兄さんの好みもわかってきた上、佐久間さんに好きな人がいるらしいと噂で聞いたこともあって何となく疎遠になってしまったから、またこうして隣を歩けるなんて思ってもいなかった。


「春奈ちゃんって今彼氏いるの?」
「いないですよ」
「へぇ、そうなんだ」
「あ、ちょっと馬鹿にしました?忙しくてですよ、忙しくて」

軽く笑った佐久間さんに「忙しくて」の部分を強調すると、馬鹿にしてなんてないって、と頭に軽く手を乗せられた。その仕草が、未だに子ども扱いされているような気がして悔しい。コツコツ、と広くて硬い床に二人分の足音が響く。


「じゃあ、付き合おうか」

何もないところで転びそうになった。けれど、まるで告白みたいな言葉の意味を考えながら様子を窺ってみた佐久間さんは真っ直ぐ前を向いていた。……何だか普通すぎる。これはそういう意味なんだろうか、でもそれならこっちを見て言うはずだしこんなに普通なものだろうか、とぐるぐる思考を巡らせて、ふと今日の日付を思い出した。兄さんの誕生日は来月に入ってすぐだ。そっか、そういうことか。勘違いしてしまったことに恥ずかしくなった。

「お願いしてもいいんですか?何年振りですかね、一緒に選んでもらうの。大人の男の人の欲しがるものってわからなかったので嬉しいです」
「……まぁ、それだけ色気がなかったらわからないんだろうな」
「……自分を基準にしないで下さいよ」
「……?」

さらっと言われた言葉を勘違いしてしまいそうになるような色気は普通の人にはないんですから、と心の中で言う。よくわからないといった顔をしていた佐久間さんは、はぁ、と息を吐いてから、あぁもうそれでいい、とまた頭に手を乗せた。やっぱり、口も行動も子ども扱いされている気がして仕方ない。でも、何だか少しそれも懐かしくて嬉しかった。


「先に言っとくけど、二人でだからな」
「昔も二人でだったじゃないですか」
「デート……の練習も兼ねてやるからそのつもりで。妹が行き遅れじゃ鬼道だって身を固められないだろうから」
「あの、忙しくて相手がいないだけで、行き遅れるつもりはないですよ?」
「そう。じゃあ精々頑張ってもらおうか」

ふっと浮かべた不敵な笑みに、心臓がどきどきした。あぁ、何を着て行けばいいんだろう。気付いたらあの頃と同じことを考えている。








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