※成人しています



九州男児はお酒に強い、と誰かが言っていた。でも多分、九州男児の全員が全員お酒に強いわけではない。
おーい、音無、音無、と綱海さんに肩を叩かれた。綱海さんの隣で、立向居くんが透明な液体の入ったグラスを両手で持ちながらテーブルに顎を乗せている。顔は赤くて、目元が少し潤んでいる。悪ぃ、ちょっと飲ませ過ぎちまったかも。綱海さんはほとんど中身のない沖縄名産泡盛のボトルを抱えながら、あんまり申し訳なさそうではなくからりと笑った。手の届く範囲は氷しかない。おそらく立向居くんのグラスの中身は度数30%の泡盛オンザロックだ。

「立向居くん、大丈夫?」
「……あ、音無さん。うん、だいじょうぶ」
「つーわけで、こいつ送ってやってくんねぇ?鬼道には上手く誤魔化しとくからさ」

な?と両手を合わせた綱海さんがウインクをしたので、男の人のウインクってあんまり可愛くないですよ、と笑ってから立向居くんの腕を取って立たせた。上着も持って、適当にお金をテーブルに置く。立向居くんも、わたしと同じ数のお札をお財布から出してテーブルに置いた。そうして、こっそり宴会を抜け出した。


外の少し冷たい風は、酔いが回り始めた頬に心地よかった。街灯と月の明かりでもう夜なのに明るい。タクシー、使う?と腕を支えている立向居くんに声をかける。……音無さん、家まで送ってくよ。赤い頬の立向居くんがへにゃりと笑った。

「……ほんとはそんなに酔ってないでしょ」
「ううん、酔ってるよ。でも送らせて」

嘘だ、と思った。地元のお祭り好きで機会があればお酒を飲む先輩に鍛えられている立向居くんは、案外お酒に強い。体質なのか、すぐ顔が赤くなりはするけれど。あの綱海さんに付き合っていたのに足取りもしっかりしている。やっぱりれっきとした九州男児だ。

「わたし、酔ってないよ?」
「それでも、送らせて。そのために出てきたんだから」
「そのために?」

それなら、半分近く残してきたジントニックが勿体無かったなぁ、と少しだけ思った。本当はもう少し、わたしはお酒が飲みたかった。もう、まんまと騙されちゃったなぁ。斜め上の立向居くんをちょっとだけ恨みがましく見た。

「音無さんが酔っ払わなくても、そろそろ誰かが潰れそうだったから。そうしたら、水飲ませたり背中さすったり音無さん絶対するから。他の人に取られたくなくて」

お酒飲むと本音出ちゃって困るね、とやっぱりへにゃりと立向居くんが笑う。俺、かっこいい先輩には妬いちゃうよ。木暮や壁山くんにも妬いちゃうけど。立向居くんはいつもよりずいぶん饒舌だ。そんなこと言われ慣れていなくて、すごく恥ずかしい。

「……立向居くん、やっぱり酔ってる?」
「うん。でも、音無さんだって酔ってるよ」
「……立向居くんのせいだもん」

じゃあ転ばないように、とぎゅっと手を握られた。何だか、ちょっと強引な気がする。頭がくらくらするのも、心臓がどきどきするのも、きっと顔が真っ赤なのもジントニックのせいじゃない。でも、周りから見たらお酒に酔った人たちにしか見えないから、もうちょっとだけくっついても許されるかな、なんて。
そんなことを考えていたら、ちょっとだけ腕を引かれた。音無、さん。え、何?

「大好きやけん、ひとりじめしたか」

夜の空気に、柔らかな言葉が吐息と一緒に溶けていった。あ、やっぱり少し酔ってるのかもしれない。




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唯さんへの捧げ物です





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