やっと捕まえた倉間くん!と音無先生に身柄を確保された。畜生、ずっと隠れてたのに何でバレたんだ。何で、って顔してるわね、浜野くんが教えてくれたの。本人には逃げられちゃったけど。あの野郎、卑怯だ。速水は?……速水くん、足速いんだもの。どうやら捕まったのは自分だけだ。まずい、非常にまずい状況だ。

何がまずいって、音無先生は二年のクラスの授業を受け持っている。その上、文武両道がモットーで世話好きなので、成績に不安がある二年部員にテスト前補習をしてくれる。(勿論、テスト問題は教えてくれないが)したがって、それに神童や霧野は当て嵌らず、面子は大抵俺、浜野、速水なのだが、俺たちには音無先生から逃げなくてはならない大きな理由がある。


運動部というのは、基本年功序列の世界だ。その世界で、とある俺様な先輩が音無先生をとても気に入ってしまったから厄介だ。……個人補習とか、いいことすんだな、お前ら。元々怖い目が更に怖くなっていた。や、別にやりたくてやるわけじゃ。……へぇ?じゃあ、やらないんだな。
補習を受けたら、受けなかったときより恐ろしい目に遭うのが目に見えている。自分が補習を頼んで、じゃあ三年の担当の先生に聞いてみるわね、とスルーされたからってあまりに横暴だとは思う。そーだな、全校集会で愛しのあの子への愛でも叫ばせるか、と南沢さんは真顔で言っている。


俺本当に勉強するんで、勘弁して下さい。本気で頭を何度も下げると、そんなに私の教わるの嫌なの?と音無先生は少し悲しそうに首を傾げた。みんな逃げることないのに、と肩を落としてしまった。まずい、泣かせてしまったかもしれない。慌てて、先生に駆け寄った。
違います、別に嫌なんじゃなくて、逃げないと学校の中心で愛を叫ばされるんです。すいません、変な説明で。とにかく、本当に嫌なわけじゃないんで。顔を上げた音無先生はきょとんとしている。……何だかわからないけど、大変なのね。でも、わからないところがあったらいつでも聞いてね?ちらりと覗き込んだ瞳は、泣いてはいなかった。あぁ、よかった。

と思ったのも束の間だった。部活に行くと、件の俺様な先輩が妙な笑顔で話しかけてきた。……倉間、校内で音無先生の顔覗き込んでた馬鹿な後輩の話、お前知ってる?何してたんだろうな?やっぱり目が全く笑っていなかった。……誤解、ですよ?……へぇ、そう。一歩一歩、南沢さんが近付いてくる。やばい、本気でやばい。背筋がぞくりとした。

南沢くん、いるかしら?女神の声が聞こえた、まさに天の助けだ。あぁ、すました顔してぶんぶん振られた尻尾が見える。何ですか?あのね、この間の補習の話なんだけど、三年の担当の先生忙しいみたいなの。だから、私でよかったら教えるけど、駄目かな?……いいですけど。
何だよそのスカした態度、本当は滅茶苦茶嬉しいくせに、と思ったが、余計なことは口に出さないに限る。先輩、口笑ってますよ。

……でも、学校の中心で愛を叫ばなきゃいけなかったら無理しないでね?と音無先生が心配そうな顔で南沢さんに尋ねている。いや、教室の端でこっそりなんで大丈夫ですよ?と意地が悪そうな笑みを浮かべた南沢さんが答えた。そうなの?大丈夫ならいいんだけど、って音無先生危機感はどこですか、と本気で問いたくなった。

まぁ、音無先生のスルースキルならこの色魔一歩手前の人も大丈夫かもしれない。そのスキルのせいで、南沢さんはこんなにも恋煩っているのだけれど。
とりあえず、先輩の機嫌が直って何よりだと、心から安堵した。








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