「何とかなるさ!」
「……なってないから!っていうか前々から思ってたけど、家に帰れば同居してる可愛いお姉さんの手料理ってどこの少年漫画のラブコメ枠の話だよ?あと美人の顧問や人妻やナースに囲まれた生活って何なわけ?ねぇ?」
「……えーっと、お姉さんって秋ネエのこと?何で今秋ネエ?」

あぁもう天馬くんそういうこと言っちゃ駄目!と輝が狩屋に近づいた天馬を後ろから抑え、どういうこと?と信助は首を傾げ、くだらない、と剣城は言い捨てた。天馬は、狩屋が三年の先輩に振られたのを慰めていたつもりなのに、どうして食ってかかられたのかさっぱりわからなかった。天気のいい昼休みの出来事だ。輝は、ため息を吐いて地面にしゃがみこむ狩屋に曖昧な笑顔を作る。

「あのさ、ほら、あの先輩剣城くんのファンらしいし仕方ないよ」
「年下好きって言ってたのそういうこと?もうマジやだ何それ」

じいっと狩屋に粘着質に見られた剣城はさりげなく逃げた。天馬と信助はきょとん、と狩屋を慰める輝を眺めている。


狩屋の好きなタイプが「年上の女性」であることは、近しい人間なら誰もが知っていた。初恋の人は一回り以上年上の施設のお姉さんで、好きな芸能人も同世代のアイドルより女子アナ、とにかく優しくしてくれるお姉さんに滅法弱い。少し自分好みの年上女性に優しくされるとすぐにときめいてしまうのだ。そして「サッカー部、頑張ってね」と声をかけてくれた上級生女子に交際を申し込んでは空回り、振られている。彼女たちにしてみれば、どうしてほとんど話したこともない自分が狩屋にそんなことを言われるのかと不審がるのは無理もない。ちなみに、サッカー部にも二人の年上の先輩女性がいるが、片や誰の目にも明らかなキャプテンのファン、片や優しく、というより激励上手なので、狩屋の好意の対象にはなっていなかった。


「狩屋、だから何とかなるって!」
「うん、僕もそう思う!天馬の言う通りだって!努力って報われるんだから!」
「……天馬くんと信助くん、話がややこしくなるからちょっと向こうで二人でパス練習しててもらってもいい?」

輝がどうにか天然二人組を遠ざけて、落ち込む狩屋の肩を叩く。巷では影山輝といえば慰め上手には定評があるのだが、恋愛事についてはまだ本人も経験不足故よくわかっていない。さて、どんな言葉で励まそうかと考えていると、通りかかった葵がひらりと制服のスカートを翻しながら、どうしたの?と声をかけてきた。

「あ、うん。狩屋くんが……いつものアレっていうか、」
「ちょ、いつものって、」
「あぁ、また振られたんだ?」

違った?と首を傾げる葵に、しゃがんだままの狩屋は漫画のような縦線と重い空気を背負った。どうしよう、とオロオロしだす輝をよそに、葵は狩屋のそばにしゃがみこんで目線を合わせた。

「元気出しなよ、いつか狩屋くんの良さがわかる女の子、きっと現れるよ」
「……いつかっていつだよ……」
「大丈夫、狩屋くんサッカー上手いし、運動神経いいし、歌も上手いし、ちょっとセンスはないけど」
「……何か余計なのが混じってるのは気のせい?」
「気のせい気のせい!私は狩屋くんかっこいいと思うよ?だからきっとそう思う子もいるって」

慌てて言い直した葵の顔を、狩屋はぼうっと口を開けながら見つめた。もう、ほら立って立って、と葵に腕を引っ張られた狩屋は、耳まで赤い。狩屋の顔に釣られたように葵の頬も仄かに赤く染まり、あ、変な意味じゃないから、と顔の前で手を振っている。そんな甘酸っぱい空気を纏った光景を眺めながら、輝は、狩屋くんって別に真性の年上趣味なわけじゃないんだなぁ、とぼんやり考えた。



「で、だ。家には可愛い親戚のお姉さん、部活ではきれいな顧問の先生、時々監督の美人の奥さんに会って、誰かの見舞いに行けば白衣の天使と遭遇、挙句の果てに幼馴染の女の子までいる天馬くん何なのって話なんだけど」
「……あれ?狩屋、さっきより人数増えてない?」




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水蜜桃さまへの捧げ物です








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