※15×13の続きっぽいものです




その言葉は、たとえば好きな子に言われたら「嫌い」よりも傷つくと思う。

「倉間先輩、南沢先輩が気持ち悪いんです」

あんまり音無が神妙な顔付きをしているので、そんなこと知らねぇよ、とうっかり言いそびれた。基本、あまり人の色恋には関わりたくない。面倒そうな人と面倒そうな後輩なら尚更だ。

「気持ち悪いって何だよそれ」
「だから、気持ち悪いんですよ」
「……って、俺は最近南沢さんお前に優しくしてるように見えるけど」
「それが気持ち悪いんです」

さっぱり意味がわからない。一時は妙に南沢さんは音無にツンツンしていたが、それ以降は見ている方が驚くほど優しい。手が空いていれば、重たいものは持ってやるし、帰りは送って行くことが多いし、あの自分の成績にしか興味のない人が二つ年下の後輩に勉強を教えていたりする。チームメイトはみな、ツンデレの生態観察を間近でしている気分だった。つまりは、南沢さんは音無に惚れているんだろう、ということは馬鹿でも想像がつく。
なのに、「気持ち悪い」とは、人間性が素晴らしいとはお世辞にも言えない南沢さんでも可哀想だ。今まで泣かせた女の子から、呪いか何かでもかけられているのかもしれない。大きく息を吐いた音無が、真面目な顔で言う。

「……あれは誰なんだろうって思うんですよ。内申馬鹿で、妙に冷めてないとこっちも調子出ないんですよ」

今にも涙が出そうな顔をして、恋しそうに呟く音無に、生温かい気持ちになった。
思い通りにいかないのが恋、なんて言った人は本当にすごい。




※そしてデレみ沢さんと春奈ちゃん


ちょっと誰かに優しくされると、すぐに大安売りで笑顔を向ける。いつものように神童にそういう顔をしているのを眺めていると、やっぱりそれをよく向けられている三国に肩を叩かれた。

「そんなに気になるなら、お前も優しくすればいいじゃないか」

女子は苛めるもんじゃねーぞ?そうダド!とどこから出てきたのか車田と天城も声をかけてきた。女子は優しい男に弱いらしいぜ?だから三国は結構モテるんじゃないか?そう笑った車田も、荷物を持ってあげて好意を向けられている女子がいる。
んな単純なもんかよ、と思ったが、よく考えたら俺はあいつに嫌われたいわけじゃない。突き詰めて見れば、苛々するのはああいう顔を自分には見せないからだ。


「あの、もう少し早く歩いてくれませんか?」
「あんま早く歩いたらオマエ走らなきゃついてこれないだろ?」

それでいいんです、と訳が分からないことを言う。優しくしたら笑うはずの奴は、こっちが歩幅を合わせても妙な顔しかしない。加えて、美術の授業で使ったという、画材の入った鞄を持ってやると、ふるふると震えた末、口を開いた。

「……どうしてそんなに優しいんですか?わたし何か怒らせるようなことしましたか?」
「……何で怒ると優しくするんだよ」

だっていつもの南沢先輩じゃないじゃないですか!、と少しキレ気味に答えられた。いつも優しい人間がそっけなかったらそう思うかもしれないが、逆は常識的にないことがわからないのだろうか。


「……ただ優しくしたいんだよ」
「……あの、大丈夫です」

足を止めて告げると苦しそうに言われたので、そっと髪を撫でると、今にも泣き出しそうな顔をされた。……お願いなのでいつもの自分勝手な先輩でいて下さい、と乞われた。きっと本当にそう思っているんだということは何となくわかった。

やめてやった方が優しさなことは、理解できた。それでも、誰にも見せないような弱々しくて困惑した表情をされると、もっとべたべたに優しくしたくなる。
瞼に唇を付けると、頬を染めて戸惑いを浮かべた顔に睨まれた。安売りの笑顔は許せても、こっちは他の誰にも見せたくない。








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