※何の説明もなくナチュラルに雷門南沢さん×中学生春奈ちゃん。


一人になりたい時に訪れるのは校内にある図書館だった。厳密には図書委員やガリガリ勉強している奴の姿があるので一人ではないのだが、あいつらは他人に興味がないので別に良かった。静かにさえしていればこちらを見られることもない。誰も入って来ない図書館の奥の方、年代物の色褪せた蔵書しかない場所の椅子に座り、読みかけの本を眺めていた。

「南沢先輩、見つけました」

一応人目、この場合は人耳か?を気にして耳元で声をかけられた。赤眼鏡の一年マネージャーが得意気な顔をしている。……今日、部活ないだろ。そうなんですけど、アレ、持って来たんで。ついでに一緒に帰ろうと思いまして。
アレ、というのは古参の教師が過去に作ったテスト問題だ。長年同じようなことをしている奴らは毎年似たような問題を出すらしい。別に今度のテストの問題自体を見るわけじゃないので、何も悪いことはしていない。本屋に行けば受験対策の過去問なんて腐るほどある。どこから見つけてくるのかはわからないが、元新聞部の音無からすればこんなものを手に入れるのは造作もないことだった。

「じゃあ、一緒に帰って下さいね」
「……あぁ」

勿論、天真爛漫なようで意外としたたかなこいつはタダでこんな物をくれたりしない。少しだけ、仲がいい振りをしてほしいんです。交換条件は簡単に言えば少しの男避けだ。中学校というのはとにかく年功序列の場で、先輩男子と仲がいいというだけで無謀な賭けに出る一年男子は格段に減るものらしい。見た目がまぁ可愛らしく誰とでも気軽に話す音無に惚れ込む奴は多い上、本人は手酷く振るのを好まない。ま、別に本当に付き合ってほしい、とかではなく、仲がいいというだけの設定で欲しい物が得られるなら安いもんだ。
貰った問題をパラパラ捲る。過去三年間ほぼ一緒です、ワンパターンもいいところですよね、と音無は隣の席に座って屈託の無い笑みを浮かべている。この口が、どうして南沢先輩なのかってなるべく性格が悪そうな先輩の方がいいじゃないですか、などと言うもんだから質が悪い。その無神経な性格見せりゃ寄ってくる男も減りそうなもんだと本気で思う。とは言え、別に隠してるわけでもなさそうだ。

「……顔か?」
「?何がですか?」
「オマエに惚れるような奴はそのとってもイイ性格なんて見えてないのかって話だよ」
「……それ、南沢先輩だけには言われたくないです。先輩こそ、その見た目じゃなかったら一生結婚どころか彼女すらできないと思いますよ?」
「……言ってくれんな」

言い返す口も達者だ。黙っていれば見られるくせに(それくらいの見た目じゃなきゃそもそも付いて回られるなんて御免だが)こうも口が立つと、天は二物を与えないもんなんだな、とつくづく実感した。
小生意気な膨れ面を眺める。特別目がでかかったり、甘ったるい顔立ちではない。もっと髪を短くすれば小綺麗な少年と言っても通用しそうな、清潔感を整えただけの顔。ガキっぽい表情を除けば、馬鹿っぽさがまるでないこの顔は結構好きだった。頭も悪くないし、案外成長したら好みのタイプになりそうな気もしないでもない。とはいえ、馬鹿っぽい女よりマシ、というだけで、欠片も男を立てそうにないこいつはそういう対象には成り得ないが。

「……あの、人の顔じっと見て何だか失礼なこと考えてませんか?」
「ったく、失礼なことしか考えないって思ってるオマエが失礼だよ」

実際、考えていたがそう言ってやると、それはすいませんでした、と不思議そうな顔をしつつ謝られた。生意気とはいえ、ひねくれているわけではなく割と素直に謝る。ぱちぱち、とまばたきをする度に、目尻だけ長い睫毛が揺れた。ちょっとした悪戯心で頬に触れてみる。

「顔は、悪くないって思っただけだ。褒めてんだよ」

ぱちり、ぱちりと睫毛が動く。えっと、ありがとう、ございます?それほど肉もなさそうなのに妙に柔らかな頬だった。しばらくそのまま撫でていると音無は、わたしも、先輩の顔は結構好きですよ、と顔は、の部分を強調して小さく笑った。面食いなんです、と続ける。そういえば、こいつは世界一のイナズマジャパンの雪原の皇子のファンだ。(もっとも、一番好きなのはゴーグルの天才ゲームメイカーらしい。本当かどうかはわからないが、素顔もかっこいいんですと言っていた)

ゆっくり顔を近づけてみても、全く避けなかった。真っ直ぐに開いた薄いブルーの瞳に自分の姿だけが映っていた。じっと穴が開くほどこっちを見ている。
それ以上のことをするのも簡単そうだったが、何となく、鼻先を軽く掠めて顔を離した。ついこの間までランドセルのガキにがっついてると思われるのも癪だ。
頬に触れた手まで離すと、はぁ、と息を吐く声が聞こえた。

「キスされるのかと思って息止めてたら苦しいです。先輩は手が早そうだから気を付けなよって浜野先輩に言われたんですけどそうでもないんですね」
「……目も閉じないガキにする趣味はねぇよ」
「あ、息止めるのに集中しすぎて目閉じるの忘れてました。次は気を付けます」
「……次って、」

だって実際したことないからわからないんですよ、そういうのって男の人が教えてくれるものなんじゃないんですか?口を尖らせているこの生き物の真意が本気でわからない。したことないのにされていいのかよ、とは聞かないが。ここで聞いたらこっちがやたらしたいみたいだ、馬鹿らしい。

でもきっと南沢先輩はしないですよね、とそいつは机に突っ伏して腕を伸ばした。……何で。だってですよ?細い腕がこっちに伸びてきて、両手で頬に触れ、文字通り目と鼻の先でいつもの小生意気な笑みを作られた。

「学校で不純異性交遊してるのバレたら大切な大切な内申に関わっちゃいますもんね、先輩?」
「……それで煽ってるつもりか?初心者」

あれ、バレましたか?でもわたし声の大きさには自信あるんですよ、叫んだら職員室は余裕だと思いますけど。ふわりとした髪に手をかける。じゃ、叫ばれないようにしとけばいいのか?顎に軽く触れると、目の前の瞼が伏せられた。

こんなのがやたら可愛く見えるなんて、きっとどうかしている。それにしたって、好かれる男からは逃げてるくせにこんなことしてていいのかよ、オマエは。





※後日の倉間くん


性悪な先輩と無自覚無神経の後輩は一人づつでも面倒だが、セットだと更に厄介だ。
倉間先輩、先輩の好きな人、先輩のこと全然見てないですけど、わたしは応援してますから!……へぇ、誰?この間、音無は堂々と人の心を抉り、南沢さんは知ってるくせにいやらしく笑った。もうあれは勘弁してほしい。そのとき、こっそりアンタらも苦しんでみろと呪ってみたのだが、まさか本当に効き目があるとは思わなかった。

音無が神童と何分も顔を間近で付き合わせた挙句、(言わずもがな神童は霧野によって保健室に連れて行かれた。ちなみに霧野も同じことをされたらしい)青ざめた顔で意味不明のことを口走っていた。

「……ただの面食いだったらよかったのに別に何ともないって……性格最悪じゃないですか……」
「は?」

そして南沢さんは天馬に絡んでいた。性別が女なだけでこれと大して変わんねぇぞ?ロリコンか俺は?えっと、俺よくわかんないですけど何とかなりますよ!悪い予感がしたので慌てて南沢さんを引き摺って、何かあったんですか?と尋ねた。

「……あんなのがいいとかありえねぇ、つーかマジあいつ何なんだ、人のこと避けといて何してんだよ」
「……話全然見えないんですけど」

さっぱり意味がわからないが、とりあえず二人とも何かに苦しんではいるらしい。とりあえず、厄介な人間は苦しんでも厄介なことだけはよくわかった。








「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -