笑顔が見たくて

殆ど捏造、R15



放課後、オレはいつものように中庭で昼寝をしていた。

「ふわあぁ…。今日も良い天気だこと!こんな日はサボるに限るねえ…って、うぉっ!?」

暖かな陽射しの中、欠伸をした直後…前に物凄い威圧感を感じオレは咄嗟に口を閉じ恐る恐る顔を上げた。

「…時任。こんな所で一体何をやっている!また部活をサボる気だろう?」

寝転がっているオレの隣に腰を下ろし、呆れた様にオレを叱りつけるニノ先輩にオレは少し拗ねたように言い返した。

「え〜…何で決め付けてるんですか〜。あ。もしかして、ニノ先輩、オレが部活に来ないと寂しいんじゃないですか〜?」

オレが依然寝転がったままニノ先輩に笑いかけると、ニノ先輩は真面目な顔でオレを見つめた。

そして、突然オレの上に跨るように乗っかってきた。

「………寂しいよ。」

ニノ先輩の細くて長い指が、オレの頬に這わされる。

真っ直ぐ、射る様な視線を顔中に感じオレは思わず身体を強張らせた。

「……ニノ、先輩…?ど、どうしたんすか…?」

「お前が部に顔を出さなかった日は…いつも物凄く落ち込むんだ。」

気付いたら、オレの両腕はニノ先輩の手によって押さえ付けられていた。

しっかりと握られた両腕…けど、部活に真面目に出ていないオレでも簡単に振り解く事の出来る程度の力で…オレは何故か、胸が苦しくなった。

「…ニノせんぱ……んっ……ぁ、ん……んん…っ…。」

"ニノ先輩…オレのこと、好きだったりするんですか?"

そう訊こうとした瞬間に、ニノ先輩の唇がオレの唇を奪った。

啄むだけの甘い口付けを何度も何度も繰り返し与えられ、もどかしさと恥ずかしさでオレの身体はどんどん熱くなっていく。

「…時任が居ないと、俺は頑張れない。好きだよ……お前の事が。」

「ニノ先輩………男の趣味悪すぎですよ〜?でも……オレも、好きです。だから、もっとちゅーして欲しいです。」

にっこり笑って唇をツンと突き出すと、ニノ先輩は頬をほんの少しだけ緩ませ今度は先程より濃厚な口付けをオレにくれた。

息継ぎをしようと唇を開いた隙にニノ先輩の熱い舌が滑り込んできた。

驚きながらも思い切って絡め返すと、ニノ先輩の目が僅かに細くなった。

その優しい笑顔に、オレは心臓がトクンと高鳴るのを感じた。

「……時任、今日は部活…来ないのか?」

「ん〜…もうすこ〜しこのまま、ニノ先輩とイチャイチャしてたい気分だけど〜…ニノ先輩が寂しそうだから、出ようかなぁ?」

「…こら、調子に乗るな。…間違っても、部員の前でそういう態度……取るなよ?」

ニノ先輩の頬が微かに赤く染まり、照れているのだと瞬時に悟ったオレはむくっと起き上がりニノ先輩にぎゅうと抱き着く。

「へへっ。好きですよ〜ニノせ〜んぱいっ。ニノ先輩は?オレのこと、好きですか?」

抱き着きながら至近距離で見つめ問い掛けると、ニノ先輩はオレの首に顔を埋め耳元で囁いた。

「……大好きだ。」

思わず、身体がビクン、と震えた。

吐息が耳朶を掠め、思考回路がショートしそうになる。

「…あのっ!ニノ先輩…ひとつ、お願いがあるんですけど。」

「…どうした?時任。」

「…二人きりの時は、名前で呼んでくれないかなぁ〜、なんて思ったりするんですけど…ダメっすか?」

「……ああ、構わない。」

「お、良かった〜断られるかと思った!じゃあ、早速呼んでみてくれません?ニノ先輩に名前、呼ばれたいな〜オレ!」

悪戯っぽい笑みを浮かべながら甘えるようにねだると、不意にニノ先輩の手のひらがオレの両頬に触れた。

そして、いきなり頬を軽く抓ってきたから、オレは少し涙目になりながら小首を傾げてニノ先輩を見つめた。

「…親之。これからは…ちゃんと、部活に来るんだぞ?…っ、やっぱり俺には、時任の方が合っているのかもしれないな…恥ずかしい。でも…」

気恥ずかしそうに顔を逸らしながら言葉を濁すニノ先輩に思わず見惚れてしまった俺は、柔らかく微笑みながら次の言葉を静かに待つ事にした。

「…でも?何ですか?ちゃんと、ニノ先輩の言葉で教えてください。オレに本当の愛を、教えてください…ね?ほら、早く…。」

オレはニノ先輩の傍に寄ると、唇が触れるか触れないかの距離でニノ先輩を見つめた。

ニノ先輩は少しだけ意地悪な笑みを浮かべたかと思うと、一瞬だけ唇が重なった。

オレの唇を一生懸命舐めたり吸ったりしてリードしようとするニノ先輩が可愛くて、愛おしくて…。

ニノ先輩と初めて唇を重ね合った事も、ニノ先輩の胸が思った以上に逞しかった事も、全てオレとニノ先輩だけが知っていればいいとさえ思ってしまったんだ。

「…部活。」

「…へ?部活がどうしたんですか?」

しばらく黙っていたニノ先輩が突然喋り出したから、オレは咄嗟に耳を傾ける。

ニノ先輩の言葉は、全部全部大切だから…もっと、もっと知りたくなってしまう。欲張りになってしまう。

「…部活、来いよ。お前が走っている姿を、もっともっとこの瞳で見ておきたいから。俺も全力でサポートする。だから…もう一度、一から始めてみないか?」

ニノ先輩の温かい言葉に、胸の奥が幸せと希望でいっぱいになっていくような気がした。

オレは静かに頷くと、ニノ先輩の手にそっと指先で触れた。

自然と見つめ合う形になり、そのままオレとニノ先輩は少しの間、二人の時間を楽しんだ。

遅くても 速くても 走り続ける事が大事だと

希望を失くしかけていたオレに教えてくれたのは、いつだってニノ先輩だったんだ…。

end.








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