きらいになりたくないのに
鶯×空知 90%くらい捏造、R指定なし
オレが鴇和学園に入学したのは、鶯が居たからだ。
演劇部に所属する事を決めたのも、きっかけは鶯だった。
オレは幼い頃から、いつだって鶯の背中ばかりを追いかけていた。
いつか、鶯の瞳に映る世界の一部になりたい。
オレは、正直…鶯に憧れみたいなものを抱いていた。
けど、鶯はオレの事を可愛い幼馴染としか思っていない。
鶯を見ていれば分かるよ。
鶯の瞳には、俺だけじゃなくてもっとキラキラした色とりどりの未来が映っている。
別に寂しくなんかない。
オレが鶯の特別になれるなんて、初めから思っていなかった。
ただ、オレが少しでも長く鶯と一緒に居たかっただけ。
けど、そろそろ我慢できなくなりそうだ。
オレは我慢が苦手だから…
今、無性に…鶯に触れたくて、たまらない。
今すぐ、オレだけを見て欲しくて…胸の奥が苦しいんだ…。
「おっ、やあ空知っ!今日も部活に来てくれて嬉しいよ。」
ある日の放課後、真っ直ぐ部室に向かう途中で鶯に肩をポンと叩かれたオレは思わず肩をビクッと震わせると力の限り叫んだ。
「…うっ…うわぁぁぁあああっ!き、き、急に話しかけるな…!バカ鶯…!」
「…おっ、空知、やるじゃないか!イイ声が出ていたよ。いやぁ〜それにしても…。」
鶯はオレに一歩近づくと、全身を隈なく眺め出した。舐めるような目つきで。
オレは思わず身体を硬直させ、恐る恐る鶯に問い掛けてみた。
「…な、何だよ…オレは見世物じゃない…。」
「いいだろう?減るもんじゃないんだ。いや、空知は今日も可愛いなと思ってね。」
「…………………鶯が…。」
「ん?どうしたんだい?空知。顔が引きつっているようだけど…。」
「変態になった…!今までも変だったけど…今度こそ紛れもない変態に…もう鴇和学園の演劇部は終わりだ…。」
オレが頭を抱えて嘆いていると、鶯は明るいトーンで反撃を開始した。
「そぉ〜らぁ〜ちぃ〜?演劇部部長のこのボクに向かって、変態とは何かな?いいか、空知!今から大事な事を教えてやろう。良く聞いておくんだ。」
鶯が何かを語り出した。鶯が何かを真剣な顔で語る時に限って、大抵その話の内容はどうでもいい内容だったりする。多分、今回もそう。
「人間という生き物は…皆変態なのだよ!だから万が一ボクが変態だとしても、それは何も恥ずかしい事なんかじゃないのだ。分かったらさっさと部室に入った入った!」
「…やっぱり鶯はバカだ。本物のバカだ。開き直るなんて恥ずかしくないの…。」
「何か言ったかな、空知?」
「…バカにバカって言っただけ。文句あるなら、その変態直してからなら受け付ける…。」
「はははっ、空知もなかなか言うじゃないか。それにしても、今日は伊織クンもハルコちゃんも遅いんだな…うーん…よし!空知、ボクと少し腹を割って語り合わないかい?」
「…鶯はもう割れてるじゃん。筋トレの効果で……。」
オレが淡々とした口調で答えると、鶯は優しく微笑みオレの向かいの席に座った。
「空知と話すのは楽しいから、もっとたくさん話したいんだよ。空知はボクと二人きりは、やっぱりつまらない?」
「っ!?…そんなこと、ない…。鶯と話すのは、好き。つまらないわけ、ない…。だって…だって、オレは…鶯の傍に居たいから、この演劇部に入部したんだから…。」
「……空知…そんな事、初めて聞いたよ。…ふむ…つまり、空知も変態だったという事だね。」
「な…!な、何でそうなるんだよ…。オレは変態なんかじゃない。オレはただ…鶯の事が大好きなだけ…。」
恥ずかしくて仕方ないのに、どういうわけか今だけは少し積極的になれそうな気がしていた。
鶯の眼鏡の奥の綺麗な瞳をしっかりと見据えると、鶯は少しだけ頬を赤らめながらオレの眼鏡を外した。
「…空知。あんまりボクを誘惑しないでおくれ。ボクだって男だ。抑えられなくなる場合もある。ボクはね、初めてのキスはもっとムードのある時にしたいと思っているんだ。」
「……は…?き、き、き、キス…!?鶯…何考えてるんだよ…。キスなんて、できるわけないじゃん…!鶯とキスなんて…無理むりムリ…!心臓壊れる…。」
「…もう、空知は純情だなぁ〜。ボクと空知は好き合っているんだ、恥ずかしがる必要なんてないじゃないか。」
眼鏡を外しているせいで、鶯の顔がどこまで近づいてきているのか把握できない。
でも、鶯の吐息が唇にかかっているのを感じて、オレは腹を括る事にした。
そっと瞼を閉じ、顎を少しだけ上げる。
鶯の手のひらが頬に添えられたのを感じながら、夕陽の射す演劇部の部室でオレと鶯は唇を重ね合った。
触れるだけのキスを何度も繰り返しては耳元で甘い声で囁いてくる鶯は、本物の王子様みたいで少しだけときめいた。
名残り惜しく唇を離すと、オレと鶯は何も言わずに見つめ合う。
「…鶯……オレ…もっと、大人なキスでも…平気なのに……。」
「…仕方ない子だね、空知は。でも、残念ながらもう下校の時間だよ。続きはボクの部屋で…ね?さ、一緒に帰ろう。」
「…うん…鶯と帰る…。」
鶯は、こういう雰囲気の時だけ真面目な顔をしてオレを試すから、少しだけくすぐったい気持ちになる。
それでも、オレは今よりももう少しだけ、鶯に近付きたくて仕方ない。
オレは鶯に向かって微笑むと、差し伸べられた鶯の手をしっかりと握った。
end.
今回はカラステぶんかぶ!の鶯×空知のお話でした。
初めてR指定なしのものを書いた気がします。
キスまではR指定なくてもいいんじゃないか?的な感覚で…よく知らないんですけどね。
読んで頂き、ありがとうございました!
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