「おい、猿渡」

「ん?何だよ、高木?」

次の日浮かれた気分で学校に行けば、席に着くなり不服そうな顔をした高木に声を掛けられた。


「何だよじゃねーだろ?何で昨日メール返してくれなかったんだ?」

もしかして昨日の事まだ怒ってるのか?と不安そうに眉尻を下げて訊ねてくる高木。だけど俺には全く覚えがない。

「メール?お前、俺にメール送ったの?」

「はぁ?見てもないのか?」

「見てないも何も、送られてきてねぇよ」

つーか、昨日何かあったか?高木に怒るような出来事あったかな?…覚えてないなぁ。むしろ昨日の事は、あの子とのメールのやりとりしか覚えていない。
さばさばした口調だけど、メールの本文から、俺への想いが確かに伝わってきた。いや、自意識過剰とかではなく。本当に。


「まぁ、その様子だと悪い方向には進んでないみたいだな」

「ん?うん、よく分からねぇけど、俺超幸せだぜ!」

「あっそ。良かったな」

高木はそれだけ言って俺の頭を数回ポンポンと軽く叩いた後、自分の席へと戻って行った。


「…?」

一体高木は何が言いたかったんだ?
確かに高木からのメールは届いてなかったと思うけど…。それに今改めて用件を言わないってことは、特別大事な用件ってわけでもなさそうだな。


「まぁ、気にしなくていいか。」

高木が変なことを言い出すのは今に限ったことではない。それに俺が今幸せなのは紛れもない事実なのだ!
学校ではメール出来ないけれど、家に帰ればまたあの子とメールが出来る!もしかしたらあの子が勇気を出して俺に喋りかけてきてくれるかもしれないし。
うはっ!そう考えると学校生活も悪くないなっ。むしろ青春してるって感じがして、すげぇいい!
「おはよう」とか可愛い声で挨拶されたら超テンション上がる!


「…おはよう」

そうそう、こんな感じに、優しく……って?あれ?

想像していた以上に低い声が頭上から聞こえてきて、俺は反射的に顔を上げる。


「……っ、」

顔を上げればぶつかる視線。いつも背後から感じる視線と同じだ。その熱の篭った視線が不快で堪らない。
突如現れた犬飼が俺を見て挨拶してきたものだから、俺は怒りと絶望におもわず一瞬固まってしまった。


「はぁ…?!」

だが負けじとすぐに睨み返してやる。
「お前じゃねぇよ!」と、机をバンっと叩き、勢い良く立ち上がり睨み付けてやった。だって、何で!そこでお前が俺に声を掛けてくるんだ!今まで俺におはようなんて言ってきたことねぇくせに!何で今日に限って…!おもわず一瞬喜んでしまったじゃないか!
くそー、本当にむかつく!



「先生!席替え!」

だから俺は今日も手を上げて担任に席替えを申し込んだのだった。…だが女子のブーイングと共に、ものの数秒でで却下されてしまった。
…人生ってそんな甘いものではないらしい。




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