「…っ、先生席替え!」
「こら、そう言うな。前から言っているだろう?仲良くしろと」
「で、でも」
「でもじゃない。また指導室に行くか?」
「………」
「分かればいい。よし、ホームルーム始めるぞ」
黙り込んだ俺に構う事なく先生は淡々と連絡事項を述べていく。これ以上言っても俺の要望は通らないだろう。何もかも思ったように物事が進んでくれない。俺は静かに溜息を吐いた。
苛々して机の上に突っ伏していたら、「おい、猿渡」と名前を呼ばれた。何事かとゆっくりと頭を上げて声がした方を見てみれば、親友である高木が俺を呼んでいた。俺は仕方なしに高木の方へと向かう。
「…何だよ?」
「機嫌悪いようだな」
「当たり前だろ」
お前だってさっきまでの俺と先生のやり取りを聞いていたはずだ。不機嫌さを隠しもせずにぶすっと顔を顰めていたら、急に頬を引っ張られた。
「…な、っ?!」
「ぶっさいくな面するなよな」
「…痛ぇな、引っ張るな!ぶさいくなのは元々だから仕方ねぇだろ!」
「俺はそういうことを言ってるわけじゃねーよ」
「だったら、何だよ…?」
というか俺の頬から早く手を離せ。地味に痛い。
俺は今機嫌が悪いんだぞ?こら、仕舞いには怒るぞ。
「……っ?!」
俺の両頬をいきなり引っ張り出した高木を睨んでいると、急に鋭い視線を感じ、俺はおもわずビクっと身体を震わせてしまった。
「猿渡?」
俺の異変に気が付いたのだろう。
高木は「どうしたんだ?」と訊ねてきた。
「…まただ」
「は?」
「視線だよ、あいつの!」
「あいつって誰?」
…あいつと言ったら一人しか居ないじゃないか。
犬飼だよ、犬飼。普段は怖いくらい無表情の癖に、こうして時々俺に対して鋭い視線を送ってきやがる。それがどういう意図があってのことかは分からない。だがあいつのことだ。ただ俺が憎いのだろう。だからあんな目を向けてくるのだ。
俺も負けじと犬飼のことを睨み返せば、高木も気が付いたのか、俺の頬から手を離した。
「な?分かっただろ?あいつの本性。普段は眉一つ動かさない癖に、こうして誰にもバレないように俺を睨んでくるんだぜ?」
「………」
「皆外見に騙されてるんだよ」
「いや、あれは…」
「ん?」
「どちらかというとお前じゃなくて俺を睨んでるんだと思うけど?」
「はぁ?何で高木が犬飼に?」
「それは、」
キンコーンカーンコーン。
まるで高木の声を遮るかのようにチャイムが鳴り響いた。
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bkm