チャラ男会計の受難 | ナノ


6


チャラ男会計総受け(無口クール書記×チャラ男会計(中身平凡))




「っ、んッ」

まじでふざけんな。
何でこんなことをしてくるんだよ。意味が分からねぇ。だってそうだろ?いくら此処が欲に飢えた男だらけの学園だとしても、お前なら外に出れば女の子だって選り取り見取りのはずなのに。それなのに何で、何で…俺なんかと…。


「ぅあ、ゃめろ…、」

そんな事を考えている内に、犬塚の行動は更に度を増し始めた。逃げようと試みる俺の腕を拘束し出すは、触れるだけのキスでは飽き足らず舌を入れてくるは。
本当にバカ。最悪。


「や、…っ、ンッ」

俺の許可なく勝手に舌を入れるなっ。
ヌルヌルして気持ち悪いし、何か背筋がゾクゾクするだろうが…。


「、ッ、…も、はな…せ」

「嫌だ」

「な、っ?」

しかし犬塚はそう言った直後、俺の口の中から舌を抜いてくれた。だからてっきりそれで終わりだと思ったんだけど…。


「ひ、ぁ…?!」

今度は顎を掴まれて、そのまま上唇から鼻にかけてベロリと舐められ、思わず変な声が出てしまった。


「お、おま…な、何して…っ」

まるで犬に顔面を舐められた気分だった。
だが、どうだ。俺の目の前に居るのは犬のような奴だが、実際は犬ではない。歴とした人間なのだ。それなのに、俺の…顔を。
信じられねぇ、こいつ。


「い、ぬづか…やめ、ろ」

「物欲しそうな顔で見てきた癖に」

「はぁ?!…んなわけね、…ッ、ン」

そして再び濃厚なキスの再開。
悔しい事に力の差は歴然で。俺だって一般男性並みの腕力はあるはずなのに、剣道で鍛えているこいつには歯痒い事に全く歯が立たない。まるで赤子と大人のようだ。抵抗らしい抵抗が出来やしない。股間でも蹴ってやれば一撃だと思うのだが、上に乗られているので、それすらも出来ない。
これが分かっていて俺の身体に体重を乗せてきているのだろうか。そうだとしたら、凄い計算高い奴だよ。



「ふ、ン、ぅ…ぁ」

つーか。誰が“物欲しそうに見てきた”だ。
ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな!
そんなことあるわけねぇだろうが!

腹が立った俺は、口の中に勝手に侵入してきている犬塚の舌先をおもいっきり噛んでやった。


「…っ」


すると犬塚の動きが止まった。
そりゃ、そうだ。力一杯噛んでやったからな。もしかしたら切れてしまったかもしれねぇな。
はっ、ざまあみろ。俺の脅威に気付いたならばさっさと離れやがれ。


そう。
俺はそう思っていたんだ。
痛い目に遭わせてやれば後悔して離してくれるって。


だけど。


「ん、ン…?っ、ひ、ぁ」


こいつは違った。


「ん、ぅ?!」

むしろ更に火が付いたように、俺の口内を激しく掻き回してきた。

しかも今度は血の味付き。やはり俺が噛んだ所為で血が出てしまったのだろう。
鉄の匂いでクラクラする。
それに上顎を舌先でなぞられ、舌を軽く噛まれれば、嫌でも変な声が出てしまう。


「あ、ァ…、ぁ」

そしてついに飲み込みきれなくなった唾液が口端から零れ落ちてしまった。もはやこの唾液がどちらの物なのかは俺には判断できない。
もはやキスという定義すらもあやふやだ。
キスというものはもっとこう、優しくて甘くてふわふわするものだと思っていた。だが、こいつとのキスはどうだ。全く掛け離れている。真逆じゃないか。


「ひ、…ァ、ゃ…ン」

唾液で薄まっているとしても血は不味い。
でもそれなのに血の匂いと味で、変に興奮してしまう俺はおかしいのだろうか。いや、おそらくそれは犬塚も同様なのだろう。


「ん、ぁあっ」

ああ、くそ。気持ちがいいなんて。
情けない。本当に情けない。
男の…犬塚のキステクだけで鳥肌立ちまくりだけでは足らず、まるで全身性感帯にでもなったように身体が震えてしまうなんて。
馬鹿野郎、痙攣するな俺の身体…っ。

ただ拘束するために掴まれている腕さえも、気持ちが良いとか思ってしまう俺はマゾなんだろうか。

いやいや。俺に限ってそんなわけあるまい。
そんな事を思っていると、ヌルリと口内から犬塚の舌が抜かれた。


「ン、ぅ」

「ふ、勃ってるぞ」

「…う、うるさ…ぃ」

ただの生理現象だこの野郎。
精一杯の見栄を張ってそう言えば、犬塚は口角を上げた。
そりゃそうだ。大粒の涙を流しながらそんな事を言われてもただの強がりにしか取られないだろう。だがそんなこと知るか。


「バカ、アホ、シネっ」

「ああ」

「……っ、」

てめぇだって勃起してるくせに。男の…しかも俺なんかとキスしただけでズボンの下で膨らませてやがるくせに。
…うあっ、くそ。そんなのを俺の下半身に擦り付けてくるな。

俺は気が済んだならさっさと離れろという意味を込めて、犬塚の胸板を拳で叩いてやった。とはいっても、上手く力が入らない所為で弱いパンチだったと思うけど。ちくしょう、覚えておけよ。明日はその股間にコークスクリューパンチでもぶちこんでやる。
すると犬塚は拘束していた俺の腕だけを離してくれた。
ああ、くそ。痣が出来てやがる。


「…っ、どけって」

「……セカンドキス」

「は、?」

「…それも、俺が奪えたか?」

「なっ、?!」

何をいけしゃあしゃあと…っ。
カッとなった俺は自由になったその手で犬塚の頬に張り手でも喰らわせようとした。


「…ぁ、」

しかし俺のスピードなど見切れない男ではない。
頬に張り手を喰らわせる前に再び手首を掴まれてしまった。

駄目だ。腕力でもスピードでも頭脳でも。
何一つ俺はこいつに勝てやしねぇ。


「は、なせ…っ」

「……怖いか?俺が」

「ば、馬鹿野郎。てめぇなんか何ともねぇよ」

「そうか」

ただの強がりだと思われてしまっただろうか。
だが俺の言葉を聞いて、犬塚は満足そうに微笑んだ後手を離してくれた。


「お前は、そっちの方がいい」

「…な、にがだよ…?」

「チャラチャラしているのは似合っていない」

「……あ、」

や、やばい。
こいつの言動に振り回されて、頭に血が上っていた所為で、「チャラ男の振り」をするのをすっかり忘れてしまっていた。何て事だ。大失態過ぎる。


「ち、違うっ。これは、」

チャラ男の振りをしていたお陰で生徒会の仕事をスムーズにこなせているかは定かではない。だがチャラ男を演じ始めてから俺の生活は安定してきたのは確かだ。


「犬塚、馬鹿。勘違いすんな。俺の話を聞けって」

「……だが、」


すると再び近付いてきた犬塚の端正な顔。


「…え、」


突然な事に避けることすら出来ずに…、



チュッ。

再び唇が重なった。



「二人だけの秘密というのも悪くないな」

触れるだけのキス。
それはイコール、俺のサードキスすらも奪われた瞬間。


そして。


「っ、うぁああああ!」

犬塚に弱みを握られた瞬間でもあった。







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