√3*3
「…え、っ?えっ、あ、あの…」
「………」
「ど、どうかしたの?」
…掴まれた腕が痛い。
いつも俺のセットした髪の毛を、優しく撫でてくれるその手は。
……思っていた以上に、力強かった。
「………」
「っ、なっちゃん、」
「………、」
「…い、痛いよぉ…ッ」
「悪い…、」
「っ、え?」
掴まれた腕を、強く引かれたと思ったら。
「………!」
そのまま何故か抱き締められた。
「…ふぁ!?、っ、な、なに…?」
「愛咲、」
「っ、」
何だ、この状況は……っ。
タバコ臭いスーツに、顔を押し付けられて。
身動きが取れないように腰と背中に腕を回されて抱き締められている。
……しかも、頭に顔を埋められて、匂いを嗅がれているんだが…、
「っ、なっちゃーん」
「………んー…?」
「く、苦しいよぉ」
つーか、人の髪の匂いなんか嗅がないでくれ。
「…っ、ねえ、なに、してるのぉ?」
「充電だ」
「じゅうでん?俺で?」
「そう、お前で」
「…何で?」
「お前が全然顔を見せないから」
「………そ、それは…」
「どうせ避けられるのなら、また会える日まで、充電しておこうと思ってな」
「……(何だその訳の分からない理由は…)」
「こうやってオッサンに抱き締められるのが嫌なら、頻繁に顔を見せろ」
「…おっさんって、なっちゃんは、まだそんな年齢じゃないでしょ?だいたい、俺は、避けてないし…、忙しかっただけだし…、」
……それに、
「その原因を作ったのは、なっちゃんでしょ?
…なんで、あんなこと、したんだよ?」
ずっと、ずっと、聞きたかった事。
会えなかった11日間、毎日悩んでいた。
感情が昂ぶり過ぎて、最後の方は演技をしている余裕がなく素が出てしまったけれど。
この際、どうでもいいや。
「何で、キスしたんですか?」
…どうせこの人は、俺の本性を知っているのだから。