√2*8
「っ、ちょ、…待って!待ってって!」
とんでもない爆弾発言をかましやがったくせに、何でもないような、それが極当たり前みたいな雰囲気で、尚もキスをしようと顔を近付けてくる会長の顔面を俺は押さえつけた。「邪魔くせえな」なんて言いながら俺の手にも噛み付こうとしてくるものだから、俺は本気で抵抗する。
「落ち着け!落ち着けって!!」
多分。悲しい事に。この場で、慌てふためいているのは俺だけだろう。
だが落ち着くべきなのは俺だけではなく、会長も同じだ。
自分のパニックも含めて、会長の逮捕ギリギリの行為も、一度止めて話し合いをしようじゃないか。
「は、話し合いをしましょう!」
「………あ?」
「…えっと、お訊ねしますけどぉ」
「何だよ?」
「そのぉ、俺達ってぇ…いつから、付き合ってんの…?」
ハッキリと言おう。俺はそんな事実は知らない。というか、何処からそんな話が出たんだ。何かの冗談なのか?……だけど、会長の顔はいつにもなう真剣そのものだ。
「あ゛?愛咲から告白してきたくせに、忘れやがったのか!?」
「え!?俺から!?」
何それ、怖い!!!全然身に覚えがないんだけど!!どういう事なんだ!
そんな俺の動揺を他所に、会長はというと「俺は、あの日の事は一日たりとも忘れてねえというのに、てめえは!」とか、なんやかんや言って怒っている様子。
その様は、付き合い出しての記念日を忘れていた彼氏に怒る彼女のようだ……。
以前言っていた通り、会長は本当に“一途な男”なのだろう。
というよりは、束縛が強過ぎるのか……?どちらにせよ、危険なヤツだという事には変わり無い。
「俺の手を握って、好きと言っただろうが!」
「………手を、握って……?」
そのフレーズを聞いて、ふと“あの時”の事を思い出した。
それは。
『はっ。お前に魅力なんざねぇだろ』やら、ゲテモノやら言われて腹が立ち。
『俺がその気になれば会長だって俺にメロメロになると思うのになー』と言った時の事だ。
俺よりも大きくて太い無骨な指。
そして苦労しているせいか出来ていた、ペンだこ。
……恋人同士のように指を絡めて。
「かいちょー、……好き、だよ?」と俺は確かに言った。
だが、それは演技だ!!
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