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チャラ男会計総受け(無口クール書記×チャラ男会計)
「………」
やっと犬塚と二人きりになれた。
それはいいことだ。
しかしだ。
どうやって話を切り出そうか…。
このまま話の流れや空気などを無視して昨日の事を切り出すのは簡単なことなのかもしれない。だけどこういうときに限って何故か機嫌の悪い犬塚のタイミングを無視して話すのは少し戸惑ってしまう。
…というか、何故こいつは機嫌が悪いんだ?昨日の所為か?俺が悪いのか?
だが何故犬塚が機嫌を悪くする必要があるんだ。機嫌を悪くするのも泣きたい気分になるのもどちらも俺の方だろうが。勝手に俺のファーストキスを奪ってきやがったくせに生意気な奴め…。
「…愛咲」
「……ん?、ん…何?」
「此処は、どうするんだ…?」
「え、あ、…それはね、こうして、」
あ、あれ?先程とは打って変わって普通じゃん。
機嫌が悪いと思ったのは俺の気の所為だったのか?
昨日キスされたことで敵対心有りで話をしていたからそう感じてしまっただけかもしれない。
そうだよな。こいつが怒った所とか見たことないし。俺の気のせいだったんだろう。
俺って余裕ない上に性格悪いなぁ。と少し反省。
「(って、俺は被害者だろ!)」
しかし俺は目の前の男に初キスを奪われた被害者だったことを思い出し、その反省はすぐに止めた。というか撤回する。
俺は悪くない。絶対に悪くない。確かに冗談で「お礼はチューでいいよ」なんてほざいてしまったものの、それを真剣に取った犬塚が悪いんだ。そうだ。そうに決まっている。
…まぁ、俺にも少しは非があるかもしれないが。一ミリくらいは…。
と、とりあえず本題は後回しにしよう。
犬塚にPCの操作を教えながら仕事を終わらせるのが先だ。
俺はそんなことを思いながら、一人で頷いた。
「えっと、それで、こうね」
マウスを巧みに動かし、最後に一回だけクリックをする。これで一通りの教えは終了。少し早口の説明になってしまったが大丈夫だっただろうか。
チラリと犬塚を横目で見れば案の定、理解出来ていないだろう表情をしていた。
「ご、ごめん。少し、早かった…かな?」
「…いや、理解力の足りない俺が悪い」
「ち、違うよ。ごめんね、俺が悪いから」
ああ、駄目だ駄目だ。
犬塚の教師(と自分の中では思っている)として失格だ。今のは完璧に俺の指導ミス。というか焦る気持ちが教えに滲み出ていたと思う。早口だったし、操作も早くし過ぎたし、これで全て理解出来る人間なんて居るわけがない。
それなのに変に犬塚に気を遣わせてしまった挙句謝らせてしまった。最悪。俺のバカ。
「ごめんね。もう一回ね。もう一回。今度はちゃんとするから…」
最初から教えるべくもう一度マウスを手に取れば、犬塚に止められた。
「犬塚?」
「…此処。この箇所だけだけでいい」
「え?そこ、だけ?」
「ああ」
まじかよ。
今の雑な説明でほとんど理解したというのか。やっぱり犬塚は凄いな。
俺は犬塚が手に持っている昨年度の予算書を覗き込んだ。
「これの何処?」
「…此処だ」
「んー?」
「どうやったら合計が出る…?」
「あー、えっとね、そこは」
その部分は口だけで説明するには少し難しいか。
もう一度PC操作しながら説明した方が俺も教え易いし、犬塚も理解し易いかもしれないな。
そう思ってマウスを手に取ろうとした瞬間。
「……、」
振り向き際にふと視界に入った犬塚の唇。
指の腹で触れば、少しかさついているのが分かりそうだ。女の人とは違う、男っぽい唇。そんな感じ。
そうだ…。
昨日俺はこの唇とキスしたんだよな…。
あの時は急な出来事で苦しいだけでよく分からなかったけれど、今思い返してみれば結構生々しい感触だったような気がする。し、舌とか口の中に入ってきてたし。ヌルヌルしていて変な感じだった。
こんな真面目そうな面していて、結構やることはやってんだよな、犬塚も。俺は初めてだから上手い下手とかあまり分からないけれど、初心者なりに犬塚は手馴れているということが分かった。
唇や舌の動かし方や、息遣いが何か慣れてるようだった…。
「………」
そうか。怒りだけであまり実感してなかったけれど。
俺、キスの経験しちゃったんだよな…。
「(何かもう。別にいいかなぁ…とか思っちゃってる自分が居たりする。確かに腹が立ったけれど、今思えばちょっとだけ、き、気持ち良かったし。…一回くらい。それに男とのキスはノーカンだと思うし。回数に入らねぇよな)」
うん、うん。
そうだ。そうに決まっている。
そういうことにしておこう。だから昨日の事はもう忘れてしまおう。多分犬塚も、もう忘れちゃってるよ。
犬に噛まれたくらいに思っておこうじゃないか。犬塚は本当に犬っぽいし。
だから今度こそは、女の子と初キスを経験しよう。
そんな事を思いながらボケッとしていたら、
「…おい」
「、へ?!」
急に犬塚に話し掛けられておもわず肩が跳ね上がってしまった。
「な、何?」
「………」
や、やばい。
自分の世界に入り込んでしまっていた。
謝ろうと口を開けば、何故かそれより先に身体を机に押し付けられたものだから、俺の口からは痛みを訴える悲痛の声しか出なかった。
「ッ、痛、」
ガチャンと何かが床に落ちた音が聞こえてきた。
そりゃ、そうだ。俺のような大の男が乗るようなスペースは机にはない。きっと俺が乗った所為で、代わりに何かが落ちてしまったのだろう。パソコンが落ちてないといいのだが…。
つーか。
この駄犬何してやがんだッ。
「…いきなり、な、にする、ン、?!」
乱暴な事をし出した駄犬に声を荒げようとしたものの、昨日と同様に、何故か近づいてきた犬塚の唇によって俺はセカンドキスと悲鳴の両方を同時に奪われてしまった。
「ん、っ、ゃめ、」
おいおいおいおい!
ふざけんな!
な、何で!ファーストキスならぬ、セカンドキスまでお前に奪われなきゃならんのだ!
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