√2*3
「しゃちょーさん。大分、お疲れのようですねぇ」
「…バーカ。俺はまだ、ただの会長様だ」
そんな事は、わざわざ言わなくても知ってるっつーの。話の流れだろ、流れ。お茶目なジョークだろうが。お前はドラマも、漫画も見ないのか。
…そこで、ふと考えて結論に至った。
こいつは、見ていないだろうな、と。いや、正確に言えば、見る暇などないのだろう。
時期、大会社の社長となる男だ。しかも、クソ忙しい生徒会の会長で。新聞を見る事はあっても、ドラマや漫画などの娯楽物を見る時間などないはずだ。
「(いつも馬鹿にしてからかってたけど、こいつって、すげぇ奴だよな)」
文句を言ったり、たまにサボってたりしていたけど、急な用事がない限り、此処に顔を出さない日はない。俺なんかよりも、ずっと、ずっと忙しいはずなのに。弱音など聞いた事もないし、それを言おうともしない。
「……どう?きもちい?」
溜まっている凝りを解すように、硬い肩を揉み解していけば、「……あ゛ー」と、何とも判断しようがない、反応が返ってきて。俺はおもわず、クスッと笑う。
「少し、寝ててもいいからね」
「……馬鹿言うな。そんな、暇ねぇよ」
そう言いながらも、会長の頭は今にもデスクに付きそうなくらいに落ちきっている。声からも察するに、物凄く眠たいのだろう。無理をせずに、寝ればいいのに。
「十分くらいなら、いいでしょ?」
「……お前が、ちゃんと起こせよ」
「はいはい。畏まりましたよーっと」
俺の言葉に渋々といった感じだったが、会長は目を閉じて、デスクに突っ伏していた。
そんな状態になっても、俺は揉んでいる手を止めない。あまり力を入れないように、首筋から肩に、そして肩甲骨に掛けてリンパを刺激してあげる。そうこうしていると、一分も経たずに、会長の静かな寝息が聞こえてきた。
「…ばーか。ゆっくり休めよ」
この俺が奉仕してやっているんだ。精々、思う存分癒されるがいい。
そして。
「愛咲!…てめぇっ!」
ハッと顔を上げて、自力で起きた会長はというと。
時計で今の時刻を確認すると、案の定、すぐさま俺の方を向いて怒鳴りだした。
「ん?なぁに?」
「何じゃねぇよ!起こせっつっただろうが!」
「……何で?まだ、大丈夫でしょ?」
「十分で起こす約束しただろ!もう一時間経つじゃねぇか!」
「十分くらいならいいでしょ、とは言ったけど、別に俺は十分経ったら起こすなんて言ってないもーん」
ふふふ、と。チャラ男っぽく口元に手を当てながらニマニマ笑えば、会長は本日二度目の舌打ちを繰り出した。
「…ったく」
「でも、どぉ?…少しは疲れは癒されたでしょ?」
「……ふんっ」
はいはい。無言は肯定っと。
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