√1*9
あれから。
俺達の生活は劇的に変わった。
まず、一つ。
「阿呆会長。サボってねぇで早く判子押せよ」
「……分かってるっつーの」
「ったく、この忙しい時にだらけやがって…」
俺は間延びした喋り方も、着崩した服装も止めた。
まあ、あのチャラ男っぽい性格を演じるのも楽しかったし、便利だったので、少し名残惜しい気もするが…。それに何というか、あの時は『俺の一部』だったような気がする。
だが、最初から元の生徒会に戻したいがための演技だったのだ。
なので、今の俺には必要ないので、キッパリと決別する事にした。
……そう。
それは二つ目の変化点にも大きく関わっている。
「こら、日野!寝るな、働け」
「………んーぅ」
「副会長…、日野を早く起こしてくれ」
「愛咲に言われたら…逆らえませんね」
「えー?寝顔可愛いから、勿体ないよー」
「ねー。もう少しだけいいじゃんかー」
「煩いバカ双子。お前らもサボったらゲンコツだぞ」
結局リコールを実行する前に。
日野がランキングに入り(抱きたい・抱かれたいのどちらとも)、生徒会のメンバーに加わる事になって、副会長と双子が頭を下げて戻ってきたのだ。
…だがもちろん無条件で戻らせてやったわけではない。
そこは、謝罪付きの土下座だ。
プライドが高い、副会長と双子が頭を下げて土下座して謝った姿は貴重過ぎたので、おもわずムービーに撮ってしまったくらいだ。あの滑稽な姿を見せて貰って許さないのも可哀想だったので、俺達は今までの事を水に流してやったというわけだ。
………優しいだろ、俺達?
そして…。
「…充」
「ん?どうした?」
「このソフトの保存の仕方が分からないのだが…」
「ああ、それね。…他のと違って、少し分かり難いからな」
何より一番変わったのは、俺と駿の関係だろう。
今ではマウスを握る駿の手に、自分から手を重ねて触れ合いたいと思うくらいに進展している。
とはいっても。
「おい、そこ。ふざけんな、距離が近いぞ」
「この距離じゃないと、PCは教えられないだろ?」
「……愛咲が教える必要ねぇだろうが」
「俺を駿の教育係に任命したのは、会長だけど?」
「………チッ」
会長や日野の目が厳しくて、そこまで大きくは進展していないのだろう。
「駿が完璧にマスターするまで、俺が教えるよ」
「ありがとう、充」
…だが。
俺からしてみれば、かなり大きい一歩を踏み出していると思う。
だって毎日がこんなにも充実していて楽しいんだ。
絶対そうに違いない。
END